Dr.鎌形がMBAで学んだ知識を活かし、患者が安心して通えるクリニックを作るための経営戦略を紹介しています。
クリニックの理念やビジョンを明確にし、それをスタッフ全員で共有することの重要性について解説しつつ、クリニックのブランディングやマーケティングにも触れ、地域に根ざした医療機関としての存在感を高める方法についても解説しています。

はじめに

いよいよクリニック開業に向けて、具体的な準備を始める段階に入りました。しかし、闇雲に準備を進める前に、まず立ち止まって考えていただきたいことがあります。

それは、「どんなクリニックを創りたいのか?」という根本的な問いです。

この問いに対する答えこそが、クリニックの「コンセプト」となります。コンセプトは、クリニックの羅針盤であり、すべての行動指針となるものです。コンセプトが明確であれば、迷うことなく、自信を持って開業準備を進めることができます。

第3回となる今回は、クリニックのコンセプトメイキングについて、具体的に解説していきます。

目次

  1. コンセプトの重要性
  2. クリニックの理念・ビジョン・ターゲット層
  3. 競合分析と差別化戦略
  4. クリニックの強みを明確にする
  5. まとめ
  6. 次回予告

1. コンセプトの重要性

なぜコンセプトが重要なのか?

コンセプトは、クリニックの存在意義を明確にし、差別化を図るために必要不可欠な要素です。患者は数あるクリニックの中から、自分に合った医療機関を選びます。

明確なコンセプトを持つことで、ターゲットとなる患者層に響くメッセージを発信し、「選ばれるクリニック」になることができます。またコンセプトは、スタッフの採用や育成、日々の診療における判断基準にもなります。

コンセプトがないクリニックはどうなるのか?

コンセプトがないクリニックは、他の医療機関との違いが明確でなく、患者に選ばれる理由を示すことができません。「なんとなく開業した」クリニックは、方向性が定まらず、一貫性のない運営になりがちです。

結果として集患に苦労し、経営が安定しない可能性が高まります。また、スタッフも働く意義を見出しにくく、チームとしての一体感が生まれにくい環境となります。

成功するクリニックのコンセプトとは?

成功するクリニックのコンセプトは、具体的であり、患者のニーズを的確に捉えているものです。また、地域特性や競合状況を十分に考慮した、独自性のあるコンセプトであることも重要です。

抽象的な理想論ではなく、実現可能で持続的なビジョンを持ち、それを診療や運営の隅々まで反映させることができるクリニックが長期的に成功します。

2. クリニックのビジョン、ミッション、バリューとターゲット層

ビジョン:クリニックの将来像、目指す姿

ビジョンは、クリニックが将来どのような姿を目指しているのかを示すものです。「5年後にはこうなっていたい」という具体的なイメージを持つことが大切です。

ビジョンは、スタッフのモチベーション向上につながり、クリニックの成長を促進します。「地域の健康拠点として認知される」「特定疾患の治療で県内トップになる」など、挑戦的でありながら実現可能なビジョンを描きましょう。

ミッション:クリニックの存在意義

ミッションは、クリニックがなぜ存在するのか、何を大切にしているのかを示すものです。単なる建前ではなく、医師自身の信念や価値観に根ざした本質的なものであるべきです。スタッフの行動指針となり、クリニック全体の一体感を醸成します。「患者の生活の質向上を第一に考える」「地域医療の課題解決に貢献する」など、明確で共感しやすい理念が望ましいでしょう。

バリュー:大切にする価値観、行動規範

バリューは、クリニックが日々の診療やスタッフの行動において大切にする価値観や行動規範を表します。これは医療提供の中で守るべき原則や姿勢を示すものです。

例えば「患者さんの声に耳を傾ける」「常に最新の医療知識を追求する」「チームワークを重視する」「誠実であること」「スピードより信頼」「挑戦を恐れない」などが考えられます。バリューは日常の判断基準となり、クリニックの文化を形成する重要な要素です。

Visionどこに向かうの?長期
Mission何のために存在する?中長期
Valueどう行動する?日々の行動基準

ターゲット層:どんな患者を対象とするのか

ターゲット層は、クリニックがどのような患者を主な対象としているのかを明確にするものです。すべての人を対象にするのではなく、特定の層に焦点を当てることで、効果的な集患戦略を立てることができます。

例えば、以下のような具体的なイメージが有効です

  • 小児科であれば、疾患、子供の性格、親御さんの層
  • 内科であれば、年齢層やライフスタイル、健康に対する意識
  • 訪問診療であれば、居宅か施設か。年齢層や疾患

ターゲットを絞ることで、その層のニーズに合わせた診療体制やサービスを構築できます。

3. 競合分析と差別化戦略

競合クリニックの調査:診療科目、診療時間、料金、評判

競合クリニックを徹底的に調査することで、自院の強みと弱みを把握し、効果的な差別化を図るための戦略を立てることができます。

調査項目としては、診療科目、診療時間、料金体系、患者からの評判、立地条件、設備・医療機器、サービス内容、スタッフの質と数、Web・SNSでの情報発信などが挙げられます。

現地訪問や口コミサイトの確認、地域住民へのインタビューなど、多角的な調査が有効です。

差別化ポイント:専門性、技術、サービス、雰囲気

競合との差別化ポイントは、専門性、技術力、サービス内容、院内の雰囲気など、様々な要素から選ぶことができます。

例えば:

  • 特定の疾患に特化した専門クリニック
  • 最新の医療機器を導入した先進的なクリニック
  • 患者一人ひとりに寄り添った丁寧な診療を行うクリニック
  • アットホームな雰囲気でリラックスできるクリニック

自分の強みと地域のニーズが合致する差別化ポイントを見つけることが重要です。

独自性の確立

差別化ポイントを明確にすることで、自院だけの強みを打ち出し、独自性を確立することができます。独自性のあるクリニックは、患者に選ばれやすく、競争の激しい医療環境でも存在感を示すことができます。

「このクリニックだからこそ」と患者に思ってもらえる要素を磨き上げることが、長期的な経営安定につながります。

4. クリニックの強みを明確にする

強みとは何か?:他のクリニックにない優位性

強みとは、他のクリニックにない優位性のことです。強みを活かすことで、患者に選ばれる明確な理由を示すことができます。

強みは必ずしも医療技術だけではありません。コミュニケーション能力、対応の速さ、快適な院内環境、アクセスの良さなど、様々な要素が強みになり得ます。

強みの見つけ方:自己分析、スタッフの意見、患者の声

強みを見つけるためには、自己分析、スタッフの意見、患者の声などを参考にします。

例えば:

  • 医師としての専門性、経験、スキル
  • スタッフのホスピタリティ、チームワーク
  • 患者からの評判、口コミ

第三者の視点を取り入れることで、自分では気づかなかった強みを発見できることもあります。

強みを活かしたクリニックづくり

強みを明確にしたら、それを最大限に活かしたクリニックづくりを目指します。

例えば:

  • 専門性を活かした診療科目の設定
  • 強みをアピールするホームページや広告の作成
  • 強みを活かしたサービスの提供

強みを中心に据えた一貫性のあるクリニック運営が、長期的な競争力につながります。

まとめ

クリニックのコンセプトメイキングは、開業準備の最初のステップであり、最も重要なプロセスの一つです。時間をかけて、じっくりと考え、明確なコンセプトを策定しましょう。

このコンセプトメイキングと合わせて、最も重要なのが市場の分析と顧客の理解です。地域の状況やニーズとマッチしないコンセプトをどれだけ練り込んでも成功は難しいでしょう。

自分のやりたいことと、地域・顧客が求めていることをバランスよくマッチングさせることを意識して進めることが、クリニック開業成功の鍵となります。

Med-Pro Doctors(株式会社EN)では、コンセプトメイキング、テナント探し、その他開業、開業後のご支援を行っております。お問い合わせはコチラまで。

次回予告 「成功するクリニック開業の鍵は、エリアマーケティングにあり!」

第4回は、クリニック経営の土台となる「エリアマーケティングと市場分析」について徹底解説します。

「どんな地域で、どんな医療ニーズがあるのか?」「競合となるクリニックはどんな状況なのか?」「自院の強みを活かせる場所はどこか?」

データに基づいたエリアマーケティングと市場分析の手法を具体的にご紹介します。「あなたのクリニック」が地域社会に貢献し、患者に選ばれるための戦略を学ぶことができます。

ぜひ第4回をご覧いただき、開業成功への第一歩を踏み出してください。

https://med-pro.jp/media.dr/2025/03/19/%e3%80%90%e9%80%a3%e8%bc%89%e3%80%91mba%e3%83%9b%e3%83%ab%e3%83%80%e3%83%bc%e9%96%8b%e6%a5%ad%e5%8c%bb%e3%81%aedr-%e9%8e%8c%e5%bd%a2%e3%81%8c%e6%95%99%e3%81%88%e3%82%8b%e3%80%8e%e3%82%af%e3%83%aa-3/?aiEnableCheckShortcode=true

2025/04/03
著者:鎌形博展
医師、株式会社EN 代表取締役、医療法人社団季邦会 理事長、東京医科大学病院 非常勤医師


東京都出身。埼玉県育ち。
明治薬科薬学部を卒業後、中外製薬会社でMRとなるも、友人の死をきっかけに脱サラして、北里大学医学部へ編入する。
卒業後は東京医科大学病院救命救急センターにて救急医として従事。2017年には慶應義塾大学大学院にて医療政策を学び、MBAを取得。東北大学発医療AIベンチャー、東京大学発ベンチャーを起業した他、医療機器開発や事業開発のコンサルティングも経験。2019年、うちだ内科医院を継承開業。以降、2020年に医療法人季邦会(美谷島内科呼吸器科医院)を継承し、2021年には街のクリニック 日野・八王子を新規開業。2023年には株式会社EN創業。国際緊急援助隊隊員・東京DMAT隊員・社会医学系専門医。趣味はBBQ。43歳で剣道・フェンシングを再開。

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