本記事では、クリニックにおける人材採用の全プロセスを解説します。求める人物像の設定から採用方法、入職後の定着・育成まで、具体的なノウハウをお伝えします。さらに、他クリニックと差をつける魅力的な求人作成法や、応募者の心を掴む効果的なアピールポイントまで、実践的な内容をご紹介します。

はじめに

クリニックの成功は、医師の力量だけでは決して実現できません。日々患者様と向き合い、医療サービスを共に提供するスタッフの存在が不可欠です。優秀なスタッフを採用し、長期的に育成することは、患者満足度の向上、クリニック運営の円滑化、そして医療機関としての評判確立に直結します。

しかし、2025年現在、医療業界全体で深刻な人材不足が続いています。日本看護協会の調査によれば、看護師の有効求人倍率は約2.5倍と高止まりしており、医療事務や受付スタッフの確保も年々難しくなっています。このような状況下で、良質な人材を確保するためには、従来の採用手法を見直し、戦略的なアプローチが求められます。

1. クリニックの顔となる!求める人物像を明確に

クリニックのビジョンと人材像の一致

採用活動の第一歩は、「どんなクリニックを目指すのか」というビジョンを明確にすることです。地域密着型の家庭医療を提供するクリニックなのか、特定の専門分野に特化した医療機関なのか、予防医学を重視するクリニックなのか。このビジョンによって、求めるべき人材像は大きく異なります。

例えば、小児科クリニックであれば、子どもとの接し方が上手で、保護者への適切な説明ができる能力が重要になるでしょう。美容クリニックであれば、接客マナーや美的センスが問われることもあります。クリニックのコンセプトに合った人材を明確にイメージすることが、採用成功の第一歩です。

職種別に必要なスキルと経験を定義する

クリニックで働くスタッフには、職種ごとに求められるスキルや経験が異なります。各職種の採用基準を明確にしておきましょう。

看護師

  • 必要な資格:看護師免許、准看護師免許など
  • 求められるスキル:バイタルチェック、採血、注射、患者対応など
  • 経験:診療科特有の経験(小児科経験、皮膚科経験など)
  • 人柄:共感力、細やかな気配り、チームワーク

医療事務・受付

  • 必要な資格:医療事務資格(必須でない場合も)
  • 求められるスキル:レセプト作成、電子カルテ操作、保険制度の知識
  • 経験:医療機関での勤務経験、接客業経験
  • 人柄:丁寧な対応、正確性、ストレス耐性

臨床検査技師・放射線技師など

  • 必要な資格:各種国家資格
  • 求められるスキル:検査機器の操作、検査データの分析、説明能力
  • 経験:専門分野での経験年数
  • 人柄:正確さ、集中力、安全意識

経験レベルを柔軟に設定する

採用時に「経験者のみ」と限定すると、人材確保が難しくなることがあります。未経験者でも人柄が良く、学習意欲が高い人材は、教育によって優秀なスタッフに成長する可能性があります。特に医療事務や受付では、未経験からでも丁寧な指導により短期間で戦力になることが多いです。

また、ブランクのある看護師や育児経験のある方など、多様な経歴を持つ人材も視野に入れると、採用の幅が広がります。勤務形態や時間帯を柔軟に設定することで、子育て中の方や介護と両立したい方など、優秀でも従来の働き方が難しかった層にもアプローチできます。

人柄重視の採用基準

医療現場では、スキルや経験も大切ですが、最終的には「人柄」が重要になります。患者様に寄り添える優しさ、チームで協力できる協調性、困難に立ち向かう粘り強さなど、技術では補えない資質を重視しましょう。

特に以下の点は、職種を問わず重要な要素です:

  • 誠実さと責任感:医療は人の命に関わる仕事です
  • コミュニケーション能力:患者様やスタッフとの円滑な意思疎通
  • 向上心:医療の進歩に合わせて学び続ける姿勢
  • 柔軟性:様々な状況や患者様に対応できる適応力
  • ストレス耐性:緊急時や多忙な状況でも冷静に対応できる力

2. 採用活動を始めよう!効果的な募集方法とは?

多様な求人媒体の特徴と活用法

求める人材像が明確になったら、効果的な媒体を使って募集を開始しましょう。各媒体には特徴があり、ターゲットとする人材層によって使い分けることが重要です。

医療専門求人サイト

  • 特徴:医療職に特化した求人情報を掲載
  • メリット:医療職を目指す求職者が集まる、専門性の高い人材が見つかる
  • デメリット:掲載料が比較的高額な場合がある
  • 主な媒体:「看護roo!」「ナース人材バンク」「医療WORKER」「ジョブメドレー」など

総合求人サイト

  • 特徴:幅広い職種の求人情報を掲載
  • メリット:多くの求職者の目に触れる、未経験者にもアプローチできる、無料や安価での採用が可能。
  • デメリット:医療職以外の応募も多く、選考の手間がかかる
  • 主な媒体:「Indeed」「リクナビNEXT」「マイナビ転職」など

ハローワーク

  • 特徴:公的機関による無料の職業紹介
  • メリット:掲載料が無料、地域密着型で地元での知名度向上
  • デメリット:応募者の質にばらつきがある、ITリテラシーが低い候補者が多い。
  • 活用法:地域限定の求人に特に効果的

人材紹介会社

  • 特徴:専門コンサルタントによるマッチング
  • メリット:厳選された人材の紹介を受けられる、採用までの手間が省ける
  • デメリット:成功報酬型で採用コストが高くなる場合がある、必ずしもいい人材を紹介してくれない
  • 活用法:特に医師や事務長、看護師などの採用に効果的

クリニックホームページを活用した採用戦略

自院のホームページに求人情報を掲載することは、コストをかけずに効果的に採用活動を行う手段です。ホームページを訪れる求職者は、すでにクリニックに興味を持っている可能性が高く、マッチング率も高まります。

ホームページでの求人掲載のポイント:

  • クリニックの理念や特色を分かりやすく伝える
  • 実際の職場環境や働くスタッフの様子を写真で紹介
  • 院長やスタッフからのメッセージを掲載
  • 具体的な勤務条件や福利厚生を明示
  • 応募フォームを設置し、簡単に応募できるようにする

さらに、クリニックのSNSアカウント(Facebook、Instagram、Twitter等)を開設し、日常の様子や雰囲気を発信することで、求職者に仕事内容や職場環境をリアルに伝えることができます。

人脈を活かした紹介採用のメリット

既存スタッフや医師会、取引業者などからの紹介による採用は、非常に効果的な方法です。紹介者がすでに人物や性格を把握しているため、ミスマッチが少なく、定着率も高い傾向があります。

紹介採用を促進するためのポイント:

  • 紹介制度を設け、紹介者に報奨金や特典を用意する
  • 院内掲示や会議で定期的に人材募集を告知する
  • 医師会や看護協会などの業界ネットワークを活用する
  • 取引のある医療機器メーカーや薬品会社の担当者にも情報共有する
  • 近隣の医療機関や介護施設と連携し、情報交換を行う

3. 他クリニックと差をつける!採用成功のノウハウ

応募者の心を掴む魅力的な求人内容

競争が激しい医療人材市場で優秀な人材を確保するためには、他のクリニックと差別化された魅力的な求人内容が必要です。単なる職務内容や条件の羅列ではなく、応募者の「ここで働きたい」という気持ちを喚起する内容を心がけましょう。

魅力的な求人内容のポイント:

  • クリニックのビジョンや理念を明確に伝える
  • 地域医療への貢献など、仕事の社会的意義を強調する
  • 院長の人柄や医療に対する姿勢を伝える
  • 職場の雰囲気や文化が伝わるエピソードを盛り込む
  • 写真や動画を活用し、視覚的に職場環境を伝える
  • 具体的なキャリアパスやスキルアップの機会を提示する

特に効果的なのは、現在働いているスタッフの声や体験談を掲載することです。実際に働いている人の言葉は説得力があり、求職者の不安を解消する効果があります。

働きがいを具体的に伝える

給与や待遇だけでなく、「この仕事の何が面白いのか」「どんなやりがいがあるのか」を具体的に伝えることが重要です。医療職は使命感や専門性、成長機会など、金銭以外の価値を重視する方も多いです。

働きがいを伝えるポイント:

  • 患者様からの感謝の声や成功事例を紹介
  • チーム医療の実践や多職種連携の機会
  • 最新医療技術や機器に触れる機会
  • 勉強会や研修制度などスキルアップの環境
  • 地域医療への貢献度や社会的意義

ワークライフバランスと福利厚生のアピール

医療現場は長時間労働やシフト勤務などの厳しい労働環境というイメージがあります。そのイメージを払拭し、働きやすい環境をアピールすることが、人材確保の鍵となります。

ワークライフバランスのアピールポイント:

  • 週休2日制や祝日休みなどの明確な休日体制
  • 有給休暇の取得率や取得事例
  • 残業時間の実態(少ない場合は特に強調)
  • 育児・介護との両立支援制度
  • フレックスタイム制度や時短勤務の可能性
  • 産休・育休の取得実績と復帰事例

福利厚生のアピールポイント:

  • 社会保険完備(健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険)
  • 退職金制度や財形貯蓄制度
  • 住宅手当や通勤手当
  • 健康診断やインフルエンザ予防接種の無料提供
  • 職員割引(自院での診療費や提携施設の利用料など)
  • 研修費用の補助や資格取得支援制度

注目される求人情報の作り方

数多くの求人の中から自院の求人に目を留めてもらうためには、タイトルや見出しの工夫が重要です。また、求人情報の構成や表現方法によって、応募率は大きく変わります。

注目される求人情報のポイント:

  • インパクトのあるタイトルや見出しを使用
  • 箇条書きや図表を活用し、読みやすく整理する
  • 重要なポイントは太字や色を使って強調
  • 専門用語や略語は避け、分かりやすい言葉で説明
  • クリニックの特色や強みを明確に伝える
  • 応募方法や選考プロセスを明確に示す

さらに、応募のハードルを下げる工夫も効果的です:

  • 応募フォームの簡素化
  • 履歴書・職務経歴書の自由形式での受付
  • 電話やメールでの事前相談の受付
  • 職場見学や体験勤務の機会提供
  • 面接日程の柔軟な調整

4. 応募者と向き合う!面接で重視すべきポイント

効果的な自己PRの引き出し方

面接では、応募者の強みや能力、仕事に対する熱意を的確に把握することが重要です。しかし、緊張している応募者から十分な情報を引き出すには、適切な質問と面接環境の工夫が必要です。

効果的な自己PR引き出し方:

  • リラックスできる雰囲気づくり(軽い雑談から始める等)
  • オープンクエスチョン(「どのように」「なぜ」等)を活用
  • 具体的なエピソードを求める質問(「〜な場面で、どう対応しましたか」等)
  • 長所だけでなく、課題や成長過程にも注目
  • 非言語コミュニケーション(表情、姿勢、声のトーン等)も観察

特に医療現場では、専門知識やスキルだけでなく、「困難な状況でどう対応したか」「チームでどう協力したか」といった実践的な経験を聞き出すことが重要です。

職務経歴から読み取るスキルと適性

応募者の職務経歴は、単なる勤務先や期間の情報ではなく、そこから読み取れるスキルや適性、成長の軌跡に注目しましょう。

職務経歴の見方のポイント:

  • 経験年数や扱った症例の種類・数
  • 習得した技術や使用経験のある医療機器
  • 職場での役割や責任(リーダー経験、教育担当等)
  • キャリアの一貫性や成長曲線
  • 転職理由と自己成長の関連性
  • 多職種連携の経験や範囲

また、医療専門職の場合、診療科による経験の違いも重要です。例えば、救急外来の経験者は緊急対応に強い、小児科経験者は子どもや保護者とのコミュニケーションに長けているなど、各診療科特有のスキルを評価しましょう。

志望動機から見るクリニックとの相性

志望動機は、応募者がクリニックのビジョンや価値観と合致しているかを見極める重要な要素です。表面的な回答ではなく、本質的な動機や価値観を探りましょう。

志望動機の見極めポイント:

  • クリニックの理念や方針への共感度
  • 将来のキャリアビジョンとの一致
  • 具体的な情報収集の度合い(ホームページや評判の確認等)
  • 地域医療や専門分野への興味・関心
  • 入職後のビジョンや貢献意欲
  • 質問の内容や深さ(質問が具体的かつ本質的であるほど、真剣度が高い)

「なぜ医療職を選んだのか」「なぜ当クリニックを志望したのか」といった基本的な質問から始め、掘り下げた質問で本音を引き出していくことが効果的です。

コミュニケーション能力の見極め方

医療現場では、患者様やご家族、他のスタッフとのコミュニケーションが非常に重要です。面接でのやり取りを通じて、応募者のコミュニケーション能力を多角的に評価しましょう。

コミュニケーション能力の評価ポイント:

  • 話の論理性と分かりやすさ
  • 傾聴力(質問の意図を正確に理解し、的確に応答できるか)
  • 表情や身振りの自然さ
  • 敬語の使い方や言葉遣いの適切さ
  • 質問への対応の柔軟性
  • 感情表現の豊かさと適切さ

また、ロールプレイを取り入れると効果的です。例えば「クレームを言ってきた患者様への対応」「急変時の報告」などの場面を想定し、実際の対応を見ることで、より実践的なコミュニケーション能力を評価できます。

面接官側の印象管理の重要性

面接は応募者を評価する場であると同時に、クリニックの印象を伝える重要な機会でもあります。面接官の態度や対応が、応募者のクリニックへの印象を左右します。

面接官側の心がけるポイント:

  • 時間厳守と丁寧な応対
  • 応募者の話を真摯に聞く姿勢
  • クリニックの魅力や特色を具体的に伝える
  • 質問に対する誠実で明確な回答
  • 働く環境や条件について正直に伝える
  • フォローアップの約束を守る(結果連絡等)

特に優秀な人材ほど、「自分を大切にしてくれる職場か」「誠実に対応してくれる組織か」を見極める目を持っています。採用側も選ばれる立場であることを意識し、良好な関係構築を心がけましょう。

5. 採用決定!条件提示と雇用契約

適切な給与設定の考え方

採用を決定したら、応募者に提示する労働条件を明確にします。特に給与は、応募者が最も重視する条件の一つです。適切な給与設定のためには、市場相場や応募者の経験・スキル、クリニックの財務状況などを総合的に考慮する必要があります。

給与設定のポイント:

  • 地域や職種ごとの市場相場を把握する
  • 経験年数やスキルレベルに応じた基本給の設定
  • 資格手当や役職手当など、モチベーションを高める仕組み
  • 昇給基準の明確化(定期昇給、査定による昇給など)
  • 賞与や業績連動型報酬の検討
  • 残業代や休日出勤手当の適正な支払い

医療職の給与水準は、2025年現在、以下が一般的な相場です(経験や地域により変動):

  • 看護師:月給28万円〜40万円程度
  • 医療事務:月給20万円〜30万円程度
  • 臨床検査技師:月給25万円〜35万円程度
  • 放射線技師:月給25万円〜38万円程度

勤務条件の明確な提示方法

給与以外の勤務条件も、採用決定時には明確に提示する必要があります。特に医療現場は、シフト勤務や時間外対応など、特殊な勤務形態も多いため、入職後のミスマッチを防ぐためにも、詳細に説明することが重要です。

勤務条件提示のポイント:

  • 勤務時間(診療時間、準備・片付け時間も含む)
  • シフト制の場合は、シフト決定方法や希望考慮の程度
  • 時間外勤務の有無と頻度、その場合の手当
  • 休憩時間の確保方法
  • オンコール対応の有無と頻度、その場合の手当
  • 勤務場所(複数拠点がある場合の勤務地など)

休日・休暇制度の説明ポイント

ワークライフバランスを重視する傾向が強まる中、休日・休暇制度は応募者の重要な判断材料です。医療機関は365日対応が必要な場合も多いですが、スタッフの休息は医療安全の観点からも重要です。

休日・休暇制度の説明ポイント:

  • 週休日数と固定休/シフト休の別
  • 祝日の扱い(休診日か診療日か)
  • 年次有給休暇の付与日数と取得方法
  • 夏季・冬季休暇などの特別休暇
  • 産前産後休暇、育児休業、介護休業などの制度
  • 急な休みが必要な場合の対応方法

実際の取得状況も併せて伝えると、より現実的な理解が得られます。例えば「有給休暇取得率は年間で約80%です」「産休後の復帰率は100%です」といった実績は、働きやすさの具体的な指標となります。

福利厚生の充実度アピール

福利厚生は給与と並ぶ重要な労働条件です。特に長期的な安心感や生活の質に関わる制度は、スタッフの定着率向上にも寄与します。

福利厚生のアピールポイント:

  • 社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険)の加入状況
  • 退職金制度の有無と内容
  • 住宅手当や通勤手当の支給
  • 健康診断や予防接種の実施
  • 職員割引(自院診療や提携施設利用など)
  • 研修費用の補助や資格取得支援
  • 福利厚生サービス(カフェテリアプラン等)の導入状況
  • 職員向け休憩室や仮眠室の整備状況

また、クリニック独自の福利厚生も検討してみましょう。例えば、誕生日休暇、リフレッシュ休暇、スタッフ懇親会、子どもの学校行事参加のための特別休暇など、スタッフのライフステージに合わせた制度が喜ばれます。

試用期間の設定と説明

多くのクリニックでは、新しいスタッフを採用する際に試用期間を設けています。これは、実際の業務を通じて適性を見極め、双方にとって適切な判断ができる期間です。試用期間を設ける際は、その目的や条件を明確に説明しましょう。

試用期間の説明ポイント:

  • 期間(一般的には3ヶ月程度)
  • 試用期間中の給与や条件(本採用時と差がある場合)
  • 評価方法と評価基準
  • 本採用への切り替え条件と手続き
  • 試用期間中のサポート体制

試用期間は不安要素にもなり得るため、「お互いに合うかどうかを確認する期間」というポジティブな意味合いを伝え、サポート体制や教育計画も併せて説明すると安心感を与えられます。

6. 活躍できる環境を!スタッフの定着と育成

効果的な教育・研修制度の構築

優秀な人材を採用できても、その後の教育・育成がなければ、スタッフの成長はもちろん、クリニックの発展も望めません。特に医療技術や制度は日々進化しているため、継続的な学習の機会を提供することが重要です。

教育・研修制度の構築ポイント:

  • 新人オリエンテーションの充実(理念、業務フロー、安全管理等)
  • OJTプログラムの整備(先輩スタッフによるマンツーマン指導等)
  • 定期的な院内勉強会の開催(症例検討、新技術紹介等)
  • 外部研修や学会参加の支援(費用補助、勤務調整等)
  • e-ラーニングなどを活用した自己学習環境の提供
  • キャリアパスに応じた段階的な教育プログラム

特に注目されているのが、多職種合同の研修です。医師、看護師、医療事務など、職種を超えて学び合うことで、チーム医療の質が向上します。また、研修内容を記録し、ポートフォリオとして蓄積していくシステムも効果的です。

モチベーションを高める評価システム

適切な評価システムは、スタッフのモチベーション維持と成長促進に不可欠です。公平で透明性の高い評価と、それに基づく処遇が、スタッフの定着率向上につながります。

評価システムのポイント:

  • 明確な評価基準の設定(業務遂行能力、専門知識、チームワーク等)
  • 定期的な評価面談の実施(半年に1回程度)
  • 自己評価と上司評価の併用
  • 具体的な改善点と成長目標の設定
  • 評価結果の処遇への反映(昇給、賞与、役職等)
  • 成功事例や優れた取り組みの表彰制度

評価は「査定」ではなく「成長のための機会」という位置づけで行うことが重要です。スタッフの強みを伸ばし、弱みをサポートする姿勢で、建設的なフィードバックを心がけましょう。

職場内コミュニケーション促進策

医療現場では、スタッフ間の密なコミュニケーションが、安全な医療提供と働きやすい環境づくりの基盤となります。職種や立場を超えた円滑なコミュニケーションを促進する仕組みを整えましょう。

コミュニケーション促進策:

  • 定期的なスタッフミーティングの開催(診療前の短時間ミーティング等)
  • 職種横断的なカンファレンスの実施
  • 電子カルテやチャットツールを活用した情報共有
  • ランチ会や懇親会などのインフォーマルな交流機会の創出
  • 提案制度や意見箱の設置(匿名でも意見を出せる環境)
  • 院長や管理者との定期的な個別面談
  • 部門間の壁を取り払うレイアウトや共有スペースの工夫
  • 朝礼や終礼での情報共有と感謝の言葉の交換
  • 院内報やニュースレターによる情報発信

特に効果的なのは「報告・連絡・相談」の文化を根付かせることです。医療ミスやヒヤリハットの共有と改善策の検討を、責任追及ではなく学びの機会として捉える風土を作りましょう。また、年代や職種によってコミュニケーションスタイルが異なることを理解し、多様な方法を用意することも重要です。

働きがいを創出する職場環境づくり

スタッフが長く活躍するためには、給与や待遇だけでなく、「仕事のやりがい」「成長実感」「貢献感」といった内発的な動機づけが欠かせません。日々の業務の中で働きがいを感じられる環境づくりを心がけましょう。

働きがい創出のポイント:

  • 一人ひとりの強みを活かした役割分担
  • 適度な裁量権と責任の付与
  • 患者様からの感謝の声や成果の共有
  • スキルアップや成長を実感できる機会の提供
  • 目標達成の喜びを分かち合う文化
  • 地域への貢献や社会的意義の実感

クリニックの理念や目標を明確にし、スタッフ一人ひとりがその実現に向けて自分の役割を認識できることが、働きがいの土台となります。また、患者様の健康改善や満足の声を共有することで、医療者としての使命感や喜びを再確認できる機会を設けましょう。

長期定着のための施策

医療人材の確保が難しくなる中、採用したスタッフに長く活躍してもらうことが、クリニック経営の安定化に繋がります。長期的な視点での人材マネジメントを心がけましょう。

長期定着のための施策:

  • ライフステージに合わせた柔軟な勤務体系の提供(育児・介護との両立支援等)
  • 長期勤続表彰や功労報奨金制度の導入
  • スキルや経験に応じたキャリアパスの明示
  • 健康管理支援(メンタルヘルスケア、過重労働防止等)
  • ワークライフバランスを重視した労働環境の整備
  • 定年後の再雇用や短時間勤務の選択肢

特に注目すべきは、スタッフの年齢やライフステージに合わせた働き方の多様化です。子育て世代には時短勤務や急な休みへの対応、ベテラン世代には技術伝承や後進育成の役割など、それぞれのライフステージに合った働き方を提案することで、長期にわたる活躍が期待できます。

7. まとめ:クリニック成功の鍵を握るチーム作り

人材採用の重要性再確認

クリニックの成功は、医師一人の力ではなく、チーム全体の力によって実現します。優秀なスタッフの採用と育成は、単なる「人手の確保」ではなく、クリニックの理念を実現し、質の高い医療を提供するための戦略的な投資です。

人材採用を成功させるためには:

  • クリニックのビジョンと求める人材像の明確化
  • 多様な募集チャネルの効果的な活用
  • 他院と差別化された魅力的な求人情報の発信
  • 適切な面接と評価による人物の見極め
  • 明確で魅力的な労働条件の提示
  • 入職後の教育体制と定着施策の充実

これらの要素を総合的に考慮し、計画的に人材確保を進めることが、クリニック開業の成功につながります。

長期的視点での人材育成戦略

医療の現場では、スタッフの専門知識や技術、患者対応力などが、日々の診療の質に直結します。長期的な視点で人材を育成し、クリニックと共に成長していくチームを作ることが重要です。

長期的な人材育成のポイント:

  • 新人からベテランまで、段階に応じた教育プログラムの整備
  • 個人のキャリア志向を尊重した成長支援
  • 専門性の深化と多職種連携力の両立
  • 次世代リーダーの育成と権限委譲
  • 医療の進化に対応した継続的な学習機会の提供
  • 職場内での知識・技術の共有と標準化

特に重要なのは、「人を育てる文化」の醸成です。スタッフ同士が学び合い、教え合う風土を作ることで、組織全体の成長速度が加速します。院長や管理者は、そのような文化を率先して作る役割を担いましょう。

チーム力がクリニックの評判を左右する理由

最後に強調したいのは、クリニックの評判や患者満足度は、チーム全体の対応力によって大きく左右されるという点です。医療の質はもちろん重要ですが、患者様が感じる「このクリニックに来て良かった」という満足感は、受付から会計までの一連の流れの中で形成されます。

チーム力を高めるための要点:

  • 全スタッフが共通の理念とビジョンを持つ
  • 職種間の相互理解と尊重の文化
  • 情報共有と意思決定のオープン化
  • 問題解決力と改善提案の奨励
  • 患者様中心の医療を実践する姿勢
  • 個々の強みを活かしたチーム編成

スタッフ一人ひとりが「このクリニックの一員である」という誇りと責任を持ち、チームとして力を発揮することで、患者様に選ばれ続けるクリニックを実現できるでしょう。

8. 参考資料:成功するクリニックの採用事例

採用成功事例の紹介

多くのクリニックが人材確保に悩む中、ユニークな取り組みで採用に成功している事例を紹介します。

事例1:キャリアパスを明確化したクリニック 東京都内の内科クリニックでは、医療事務スタッフに対して「受付」→「会計」→「保険請求」→「マネジメント」といった具体的なキャリアパスを示し、それぞれのステップで取得すべきスキルや研修プログラムを用意しています。未経験者でも将来のビジョンが描けるこの仕組みにより、定着率が大幅に向上しました。

事例2:働き方の多様性を重視したクリニック 関西地区の小児科クリニックでは、子育て中の看護師が働きやすいよう、「短時間正社員制度」を導入。2時間から6時間までの多様な勤務形態を用意し、子どもの成長に合わせて徐々に勤務時間を延ばせる仕組みを作りました。その結果、地域の子育て中の看護師から多数の応募があり、人材確保に成功しています。

事例3:教育システムを前面に出したクリニック 名古屋市の皮膚科クリニックでは、「未経験者大歓迎」をキャッチフレーズに、独自の教育システム「スキンケアエキスパート養成講座」を開設。美容に興味のある若い世代に特化した採用活動を展開し、美容業界からの転職者も多数獲得しています。

まとめ

人材採用は、クリニックの未来を左右する重要なプロセスです。

求める人物像を明確にし、効果的な採用活動を行い、スタッフの定着と育成に力を入れることで、クリニックの成長と発展に繋がるチームを作ることができます。

魅力的な求人内容と効果的な募集方法で、優秀な人材を獲得し、長く活躍できる環境を提供することで、クリニックの成功へと導きましょう。

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次回予告:患者さんを惹きつける!集患戦略を考えよう!

さあ、クリニック開業もいよいよ大詰め!

でも、どんなに素敵なクリニックを作っても、患者さんが来なければ意味がないですよね?

「どうやって患者さんを集めればいいの?」 「どんな方法が効果的なの?」 「地域の人たちに知ってもらうにはどうしたらいいの?」 …と、悩んでいませんか?

ご安心ください!次回は、集患戦略について徹底解説!

患者さんの心を掴む、様々な方法をご紹介します。 集患の悩みを解消して、患者さんに愛されるクリニックを目指しましょう!

2025/04/03
著者:鎌形博展
医師、株式会社EN 代表取締役、医療法人社団季邦会 理事長、東京医科大学病院 非常勤医師


東京都出身。埼玉県育ち。
明治薬科薬学部を卒業後、中外製薬会社でMRとなるも、友人の死をきっかけに脱サラして、北里大学医学部へ編入する。
卒業後は東京医科大学病院救命救急センターにて救急医として従事。2017年には慶應義塾大学大学院にて医療政策を学び、MBAを取得。東北大学発医療AIベンチャー、東京大学発ベンチャーを起業した他、医療機器開発や事業開発のコンサルティングも経験。2019年、うちだ内科医院を継承開業。以降、2020年に医療法人季邦会(美谷島内科呼吸器科医院)を継承し、2021年には街のクリニック 日野・八王子を新規開業。2023年には株式会社EN創業。国際緊急援助隊隊員・東京DMAT隊員・社会医学系専門医。趣味はBBQ。43歳で剣道・フェンシングを再開。

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