「クリニック開業で最も重要なことは何ですか?」
そう聞かれたら、私は迷わずこう答えます。
「場所選びです」と。
なぜなら、どんなに優れた医療を提供しても、患者様が来院できなければ意味がないからです。
クリニック経営において、場所選びはまさに生命線なのです。
しかし、「良い場所」とは、単に人通りが多い場所ではありません。
あなたのクリニックのターゲット層にとって、通いやすい場所である必要があります。
そのためには、エリアマーケティングと市場分析が不可欠です。今回は、クリニック開業におけるエリアマーケティングと市場分析の重要性、具体的な調査方法、そしてそれらを場所選びにどう活かすかを解説します。
エリアマーケティングの重要性
なぜエリアマーケティングが必要なのか?
エリアマーケティングとは、特定の地域における人口、年齢層、所得水準、ライフスタイル、医療機関の分布などの情報を収集・分析し、クリニック経営に役立てることです。
エリアマーケティングを行うことで、地域の医療ニーズや競合クリニックの状況を把握し、自院の強みを活かせる場所を見つけることができます。
エリアマーケティングをせずに安易に場所を選ぶと、集患に苦労したり、競合に埋もれてしまったりする可能性があります。
エリアマーケティングは、クリニック開業におけるリスクを軽減し、成功の可能性を高めるために不可欠なプロセスです。
具体的には、以下の情報を収集・分析します。
- 人口動態
◦年齢構成: ターゲットとする年齢層の人口はどのくらいいるのか?増加傾向にあるのか?減少傾向にあるのか?
◦世帯数: 単身世帯が多いのか?ファミリー世帯が多いのか?
◦人口増加率: 人口は増加している地域なのか?減少している地域なのか?
◦昼間人口と夜間人口: 昼間と夜間で人口の変動が大きい地域なのか?
◦これらの情報は、国勢調査や地方自治体の統計資料から入手できます。 - 疾病構造
◦地域特有の疾患: その地域で特に多い疾患や、注意すべき疾患は何か?
◦罹患率: 対象とする疾患の罹患率はどのくらいか?
◦これらの情報は、厚生労働省や地方自治体の統計資料、地域医療連携ネットワークなどから入手できます。 - 医療機関の分布
◦潜在的な患者数: どれくらいの患者数が見込めるのか?
◦ニーズ: 患者はどのような医療サービスを求めているのか?
◦これらの情報は、人口動態や疾病構造、競合クリニックの情報などを分析することで推測できます。
◦また、地域住民へのアンケート調査やヒアリングなども有効です。
競合分析:ライバルを知る
競合分析とは、競合クリニックの情報を収集・分析することです。
具体的には、以下の情報を収集します。
- 競合クリニックの基本情報: 診療科目、診療時間、場所、電話番号、ホームページ
- 競合クリニックの強み・弱み: 診療内容、設備、スタッフ、料金、評判
◦診療内容: どのような診療を行っているのか?専門性はあるのか?
◦設備: 最新の医療機器を導入しているか?
◦スタッフ: 経験豊富なスタッフがいるか?
◦料金: 診療料金は高いか?安いか?
◦評判: 患者からの評判は良いか?悪いのか?口コミサイトなどを参考にしましょう。 - 競合クリニックの患者数: 推定患者数、患者層
◦実際にクリニックを訪れて、患者数や患者層を観察してみましょう。
これらの情報を収集・分析することで、競合クリニックとの差別化戦略を立てることができます。
SWOT分析:自院の立ち位置を把握する
SWOT分析とは、自院の強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) を分析し、経営戦略を立てるためのフレームワークです。
エリアマーケティングと市場分析の結果を踏まえ、自院のSWOT分析を行いましょう。
- 弱み (Weaknesses)
◦診療科目の限定
◦広報活動の不足
◦資金力
◦スタッフの経験不足 - 機会 (Opportunities)
◦高齢化社会
◦健康志向の高まり
◦医療制度改革
◦新規患者の獲得
◦新規診療科目の導入 - 脅威 (Threats)
◦競合クリニックの増加
◦医療費抑制
◦人材不足
◦経済状況の悪化
エリア選定:最適な場所を見つける
エリアマーケティング、市場分析、競合分析、SWOT分析の結果を踏まえ、最適な場所を選びましょう。
場所選びのポイントは以下の通りです。
自分のやりたいことと、地域・顧客が求めていることをマッチングさせることを意識して進めると良いでしょう。
- 立地条件
◦アクセス: 駅からの距離、バス停からの距離、駐車場の有無
◦視認性: 道路からの見えやすさ、看板の設置
◦周辺環境: 商業施設、公共施設、住宅地、治安 - 患者層: ターゲット層との適合性
- 競合状況: 競合との差別化
- 将来性: 人口増加、都市開発
これらの要素を総合的に判断し、あなたのクリニックにとって最高の場所を見つけましょう。
まとめ
クリニック開業における場所選びは、経営を大きく左右する重要な決断です。
エリアマーケティングと市場分析をしっかりと行い、地域の医療ニーズと競合の状況を把握した上で、最適な場所を選びましょう。
具体的な調査方法を参考に、データに基づいたエリア選定を行うことで、クリニック開業の成功に大きく近づきます。
あなたのクリニックが、地域医療に貢献できる素晴らしいクリニックとなることを心より願っています。
次回予告:「成功する物件選びは、クリニックの未来を左右する」
「理想のクリニックを実現する立地条件とは?」
「後悔しないための物件探しのポイントは?」
「不動産業者との交渉で有利に立つには?」
「あなたはどんな場所にクリニックを建てたいですか?」
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2025/03/31
著者:鎌形博展
医師、株式会社EN 代表取締役、医療法人社団季邦会 理事長、東京医科大学病院 非常勤医師

東京都出身。埼玉県育ち。
明治薬科薬学部を卒業後、中外製薬会社でMRとなるも、友人の死をきっかけに脱サラして、北里大学医学部へ編入する。
卒業後は東京医科大学病院救命救急センターにて救急医として従事。2017年には慶應義塾大学大学院にて医療政策を学び、MBAを取得。東北大学発医療AIベンチャー、東京大学発ベンチャーを起業した他、医療機器開発や事業開発のコンサルティングも経験。2019年、うちだ内科医院を継承開業。以降、2020年に医療法人季邦会(美谷島内科呼吸器科医院)を継承し、2021年には街のクリニック 日野・八王子を新規開業。2023年には株式会社EN創業。国際緊急援助隊隊員・東京DMAT隊員・社会医学系専門医。趣味はBBQ。43歳で剣道・フェンシングを再開。