MBAホルダーである開業医のDr.鎌形が、自身の経験をもとにクリニック経営の成功法則を解説。資金調達、物件選定、エリアマーケティング、事業計画書作成など、開業医が直面する課題に対する具体的なアドバイスを、本記事では解説していきます。
はじめに
「クリニック開業で最も重要なことは何ですか?」
そう聞かれたら、私は迷わずこう答えます。 「場所選びです」と。
なぜなら、どんなに優れた医療を提供しても、患者が来院できなければ意味がないからです。クリニック経営において、場所選びはまさに生命線なのです。
しかし、「良い場所」とは、単に人通りが多い場所ではありません。あなたのクリニックのターゲット層にとって、通いやすい場所である必要があります。そのためには、エリアマーケティングと市場分析が不可欠です。
今回は、クリニック開業におけるエリアマーケティングと市場分析の重要性、具体的な調査方法、そしてそれらを場所選びにどう活かすかを解説します。
目次
- エリアマーケティングの重要性
- 具体的な情報収集と分析方法
- 競合分析:ライバルを知る
- SWOT分析:自院の立ち位置を把握する
- エリア選定:最適な場所を見つける
- まとめ
1. エリアマーケティングの重要性
なぜエリアマーケティングが必要なのか?
エリアマーケティングとは、特定の地域における人口、年齢層、所得水準、ライフスタイル、医療機関の分布などの情報を収集・分析し、クリニック経営に役立てることです。
エリアマーケティングを行うことで、地域の医療ニーズや競合クリニックの状況を把握し、自院の強みを活かせる場所を見つけることができます。エリアマーケティングをせずに安易に場所を選ぶと、集患に苦労したり、競合に埋もれてしまったりする可能性があります。
エリアマーケティングは、クリニック開業におけるリスクを軽減し、成功の可能性を高めるために不可欠なプロセスです。多くの開業医が失敗する原因の一つに、この調査不足があると言っても過言ではありません。
2. 具体的な情報収集と分析方法
エリアマーケティングでは、以下の情報を収集・分析します。
人口動態
地域の人口構成は、患者層を予測する上で最も基本的かつ重要な情報です。
- 年齢構成: ターゲットとする年齢層の人口はどのくらいいるのか?増加傾向にあるのか?減少傾向にあるのか?
- 世帯数: 単身世帯が多いのか?ファミリー世帯が多いのか?
- 人口増加率: 人口は増加している地域なのか?減少している地域なのか?
- 昼間人口と夜間人口: 昼間と夜間で人口の変動が大きい地域なのか?
これらの情報は、国勢調査や地方自治体の統計資料から入手できます。日本医師会のデータベースが使用しやすいので一度アクセスしてみてください。特に診療科によっては、ターゲットとなる年齢層の分布が大きく影響するため、詳細な分析が必要です。
疾病構造
地域ごとに疾病構造は異なります。自院の診療内容と地域の疾病構造がマッチしているかを確認しましょう。例えば、白内障オペに特化したクリニックを作るのであれば、高齢化がある程度進んでいて、アクセスの便利な立地であることが重要な条件となります。
内視鏡特化のクリニックであれば、主要駅の駅前などが好ましいですが、すでに強い競合クリニックが存在するケースがほとんどだと思います。競争環境にも配慮が必要です。
医療機関の分布
競合となる医療機関の分布を把握することで、自院のポジショニングを検討できます。
- 競合クリニック: 同じ診療科目のクリニックはどれくらいあるのか?
- 病院: 近くに総合病院や専門病院はあるのか?
これらの情報は、インターネット検索や地域医療連携ネットワークなどから入手できます。実際に現地を訪れて、競合クリニックの様子を確認することも重要です。
医療ニーズ
地域住民がどのような医療サービスを求めているかを把握しましょう。
- 潜在的な患者数: どれくらいの患者数が見込めるのか?
- ニーズ: 患者はどのような医療サービスを求めているのか?
これらの情報は、診療圏調査アプリを使用する使用して、人口動態や疾病構造、競合クリニックの情報などから推測できます。ただし、必ずしも正しい数字ではありません。例えば、大きな駅の駅前であれば、広い範囲から人が集まるので、診療圏調査が使用するデータよりもはるかに大きな顧客層が見込まれます。
また、地域住民へのアンケート調査やヒアリングなども有効です。地域の薬局や介護施設に話を聞くのも一つの方法です。
3. 競合分析:ライバルを知る
競合分析とは、競合クリニックの情報を収集・分析することです。競合クリニックの強みと弱みを理解することで、自院の差別化ポイントを明確にすることができます。
具体的には、以下の情報を収集します。
競合クリニックの基本情報
- 診療科目、診療時間、場所、電話番号、ホームページ
競合クリニックの強み・弱み
- 診療内容: どのような診療を行っているのか?専門性はあるのか?
- 設備: 最新の医療機器を導入しているか?
- スタッフ: 経験豊富なスタッフがいるか?
- 料金: ワクチンや自由診療などの料金は高いか?安いか?
- 評判: 患者からの評判は良いか?悪いか?口コミサイトなどを参考にしましょう。
- その他施策:リスティング広告の運用状況など
競合クリニックの患者数
- 推定患者数、患者層
- 実際にクリニックを訪れて、患者数や患者層を観察してみましょう。
これらの情報を収集・分析することで、競合クリニックとの差別化戦略を立てることができます。競合が提供していないサービスや、不足している診療領域を見つけることで、自院の強みを活かせる分野が明確になります。
4. SWOT分析:自院の立ち位置を把握する
SWOT分析とは、自院の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を分析し、経営戦略を立てるためのフレームワークです。
エリアマーケティングと市場分析の結果を踏まえ、自院のSWOT分析を行いましょう。
強み(Strengths)
内部環境における強みを洗い出します。
- 専門性、経験、技術力
- 最新の医療機器
- 患者本位の診療
- スタッフのホスピタリティ
- 便利な立地
- リーズナブルな料金設定
弱み(Weaknesses)
内部環境における弱みを正直に評価します。
- 診療科目の限定
- 広報活動の不足
- 資金力
- スタッフの経験不足
機会(Opportunities)
外部環境における機会を探ります。
- 高齢化社会
- 健康志向の高まり
- 医療制度改革
- 新規患者の獲得
- 新規診療科目の導入
脅威(Threats)
外部環境における脅威に備えます。
- 競合クリニックの増加
- 医療費抑制政策
- 人材不足
- 経済状況の悪化
SWOT分析を通じて、自院の強みを最大限に活かし、弱みを補完する戦略を考えるとともに、外部環境の機会を捉え、脅威に対処する方法を検討しましょう。
5. エリア選定:最適な場所を見つける
エリアマーケティング、市場分析、競合分析、SWOT分析の結果を踏まえ、最適な場所を選びましょう。
場所選びのポイントは以下の通りです。
立地条件
物理的な立地条件は、患者の来院しやすさに直結します。
- アクセス: 駅からの距離、バス停からの距離、駐車場の有無
- 視認性: 道路からの見えやすさ、看板の設置のしやすさ
- 周辺環境: 商業施設、公共施設、住宅地、治安
患者層との適合性
ターゲットとする患者層が多く住んでいる、または通勤・通学している地域を選びましょう。
- 小児科であれば、子育て世代が多い住宅地
- 内科・老年内科であれば、高齢者が多い地域
- 美容皮膚科であれば、若い女性が多く訪れる商業エリア
競合状況
競合クリニックとの差別化が図れる場所を選びましょう。
- 競合が少ないエリア
- 競合があっても、弱い。自院の強みを活かせるエリア
将来性
長期的な視点で、地域の発展性を考慮しましょう。もしかしたら、衰退地域にもチャンスはあるかもしれません。個別に分析していく必要があります。
- 人口増加が見込まれるエリア
- 再開発計画のあるエリア
- 交通アクセスの改善が予定されているエリア
これらの要素を総合的に判断し、あなたのクリニックにとって最適な場所を見つけましょう。最も良い立地は、必ずしも最も賃料が高い場所ではありません。ターゲット層のニーズと自院の強みを最大限に活かせる場所こそが、最適な立地なのです。
まとめ
クリニック開業における場所選びは、経営を大きく左右する重要な決断です。
エリアマーケティングと市場分析をしっかりと行い、地域の医療ニーズと競合の状況を把握した上で、最適な場所を選びましょう。具体的な調査方法を参考に、データに基づいたエリア選定を行うことで、クリニック開業の成功に大きく近づきます。
忘れてはならないのは、場所選びは一度決めると簡単には変更できないということです。十分な時間をかけて調査・分析し、慎重に判断することが重要です。
あなたのクリニックが、地域医療に貢献できる素晴らしいクリニックとなることを心より願っています。
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次回予告 「成功する物件選びは、クリニックの未来を左右する」
第5回は、クリニック経営の成否を大きく左右する、物件選びについて徹底解説します。
「理想のクリニックを実現する立地条件とは?」「後悔しないための物件探しのポイントは?」「不動産業者との交渉で有利に立つには?」
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2025/04/03
著者:鎌形博展
医師、株式会社EN 代表取締役、医療法人社団季邦会 理事長、東京医科大学病院 非常勤医師

東京都出身。埼玉県育ち。
明治薬科薬学部を卒業後、中外製薬会社でMRとなるも、友人の死をきっかけに脱サラして、北里大学医学部へ編入する。
卒業後は東京医科大学病院救命救急センターにて救急医として従事。2017年には慶應義塾大学大学院にて医療政策を学び、MBAを取得。東北大学発医療AIベンチャー、東京大学発ベンチャーを起業した他、医療機器開発や事業開発のコンサルティングも経験。2019年、うちだ内科医院を継承開業。以降、2020年に医療法人季邦会(美谷島内科呼吸器科医院)を継承し、2021年には街のクリニック 日野・八王子を新規開業。2023年には株式会社EN創業。国際緊急援助隊隊員・東京DMAT隊員・社会医学系専門医。趣味はBBQ。43歳で剣道・フェンシングを再開。