クリニック開業の全ステップと計画的なスケジュール管理、開業準備から運営開始まで、医師が知るべき重要ポイントを解説しています。

はじめに

クリニック開業は、まるで壮大な航海に出るようなものです。羅針盤と海図がなければ航海は困難を極めるように、医院開業においても事前の綿密な計画と準備が成功への鍵となります。

第2回となる今回は、クリニック開業という航海の全体像を把握し、それぞれのステップで何をすべきか、そして安全かつスムーズに目的地へ到達するためのスケジュール管理について解説していきます。

目次

  1. クリニック開業までの11ステップ
  2. 各ステップにおける注意点とポイント
  3. スケジュール管理の重要性
  4. まとめ

1. クリニック開業までの11ステップ

クリニック開業までの道のりは、大きく分けて以下の11個のステップに分類できます。

ステップ1: コンセプトメイキング

どのようなクリニックにしたいのか、診療理念や診療方針、ターゲット層を明確化します。これは開業準備の土台となる重要なプロセスです。

ステップ2: 事業計画書の作成

経営理念、事業内容、収支計画などを具体的に記した事業計画書を作成します。資金調達や経営の羅針盤となる重要な文書です。

ステップ3: 物件選定

クリニックの立地となる物件を探し、契約交渉を行います。立地条件は開業後の集患に大きく影響するため、慎重な選定が必要です。

ステップ4: 資金調達

開業に必要な資金を調達します。自己資金、金融機関からの融資、各種助成金など、様々な方法を組み合わせることが一般的です。最低限の自己資金を用意し、また評価を得やすいように身辺を綺麗にしましょう。

ステップ5: 内装・設計

患者やスタッフにとって快適な空間となるよう、内装やレイアウトを設計します。機能性と快適性のバランスが重要です。費用も時間もかかるところです。早めに動きましょう。場合によってはボトルネックになります。

ステップ6: 医療機器選定

診療に必要な医療機器を選定し、購入またはリース契約を行います。診療科目に応じた適切な機器選びが求められます。

ステップ7: 人材採用

クリニックで働くスタッフを募集し、採用します。理念に共感する人材の確保が長期的な成功につながります。

ステップ8: 集患戦略

どのように患者を集めるか、効果的な戦略を立てます。オープン前から計画的な広報活動が重要です。

ステップ9: 各種申請手続き

保健所、税務署、消防署などへの必要な手続きを行います。法的要件を満たすための重要なステップです。

ステップ10: 開業準備

開院に向けて、スタッフ教育、業務マニュアル作成、広報活動などを行います。スムーズな診療開始のための準備期間です。

ステップ11: 開業

ついにクリニックを開業し、診療を開始します。開業後も継続的な改善が成功への道となります。

2. 各ステップにおける注意点とポイント

各ステップには、それぞれ注意すべき点と押さえておくべきポイントがあります。

コンセプトメイキングの重要ポイント

ターゲットとする患者層を明確化し、そのニーズに合った医療サービスを提供できるよう、診療科目や診療時間などを検討します。競合となるクリニックを徹底調査し、差別化を図るための戦略を練ることも欠かせません。

将来的な地域の人口動態や医療ニーズの変化も視野に入れた長期的なビジョンを描くことが理想的です。

事業計画書作成のポイント

資金計画は、開業資金だけでなく、軌道に乗るまでの運転資金も十分に考慮して作成します。収支計画は現実的な数値に基づいて作成し、将来の展望も盛り込むことが重要です。

金融機関からの評価を高めるためにも、具体的な数字と根拠を示した説得力のある計画書を目指しましょう。

物件選定のポイント

立地は、患者のアクセスのしやすさ、周辺環境、競合状況などを多角的に考慮して選びます。契約条件は、賃料、契約期間、更新料などを確認し、必要に応じて交渉することが大切です。

将来的な拡張の可能性や、建物の構造上の制約なども検討しておくと良いでしょう。

資金調達のポイント

自己資金、融資、助成金など、それぞれのメリット・デメリットを理解し、最適な組み合わせを選択します。金融機関からの融資を受ける場合は、事業計画書の内容が審査の重要な判断材料となります。

医療機関向けの特別融資制度や補助金情報も積極的に収集しましょう。

内装・設計のポイント

患者とスタッフの動線を考慮し、スムーズな移動ができるように設計します。バリアフリー対応を整備することで、高齢者や障害をお持ちの方でも安心して来院できる環境を整えましょう。

感染対策の観点からも、適切な換気システムや空間設計が求められます。

医療機器選定のポイント

診療科目に必要な医療機器をリストアップし、性能、価格、アフターサービスなどを比較検討します。最新の医療機器を導入することで、患者へのより質の高い医療サービス提供が可能になります。

ただし、必要以上に高額な機器を導入することは経営を圧迫する原因ともなるため、バランスの取れた選定が重要です。

人材採用のポイント

クリニックの理念に共感し、患者を思いやる気持ちを持ったスタッフを採用します。経験やスキルだけでなく、人柄も重視した選考を心がけましょう。

チームとして機能するためには、コミュニケーション能力や協調性も重要な要素となります。

集患戦略のポイント

ホームページやSNSを活用したデジタルマーケティングは、現代において不可欠な要素です。地域の特性に合わせたチラシ配布や、近隣の医療機関との連携による紹介システムの構築も効果的です。

開業前から地域住民への認知を高める活動を計画的に行いましょう。

各種申請手続きのポイント

保健所、税務署、消防署など、必要な手続きを漏れなく行います。各手続きに必要な書類や申請期限を事前に確認し、余裕を持って準備することが肝心です。

専門家のサポートを受けることで、スムーズな手続きが可能になるケースも多いでしょう。

開業準備のポイント

スタッフ教育は、クリニックの理念や診療方針を共有し、チームワークを築くために重要です。業務マニュアルを作成することで、業務の標準化を図り、効率的な運営を実現します。

開業前に地域住民への広報活動を計画的に行うことで、開院後のスムーズな集患につながります。

3. スケジュール管理の重要性

クリニック開業までの道のりは長く、様々なタスクを同時進行で行う必要があります。そのため、綿密なスケジュール管理は非常に重要です。

全体スケジュールの作成

各ステップにかかる時間を現実的に想定し、開業までの全体スケジュールを作成します。理想的には開業予定日から逆算して、各タスクの期限を設定することをお勧めします。

期日設定と進捗管理

各ステップの期日を明確に設定し、計画的に進捗できるようにします。進捗状況を定期的に確認し、遅延が発生している場合は、原因を分析し、迅速に対策を講じることが重要です。

余裕を持ったプランニング

予期せぬトラブルが発生する可能性も考慮し、余裕を持ったスケジュールを組むことをお勧めします。特に行政手続きや工事関連のスケジュールは、想定以上に時間がかかるケースが多いため、十分な余裕を見込んでおきましょう。

管理ツールの活用

スケジュール管理ツールやアプリなどを活用することで、効率的にタスク管理を行うことができます。ガントチャートなどの視覚的なツールを使うことで、全体の進捗状況が把握しやすくなります。

まとめ

クリニック開業は、多くの準備と努力が必要な長い道のりですが、地域医療に貢献し、患者の健康を支えるという大きなやりがいがあります。さらに、経営者として自らの理想を形にする喜びや、適切な経営によってもたらされる経済的な成功も期待できます。

本連載では、次回以降、各ステップについてさらに詳しく解説していきます。それぞれのステップで必要な知識を深め、計画的に準備を進めることで、クリニック開業を確かな成功へと導きましょう。

Med-Pro Doctors(株式会社EN)では、大手薬局グループや開業コンサルタント、M&A仲介業者など20社以上と取引をして、Drの要望にあう物件探しをお手伝いしています。面談を通じて、物件探しの要件を定義して、問い合わせ、精査を行うところまでお手伝いしております。その後の開業手続きや開業のご支援も行います。お問い合わせはコチラまで。

次回予告

「どんなクリニックを創りたいか?— 羅針盤なき航海は失敗する」

第3回は、クリニック経営の最重要ポイントである「コンセプトメイキング」について徹底解説します。

「理念・ビジョン・ターゲット層の明確化」、「競合分析と差別化戦略」、そして「クリニックの強みを磨き出す」方法を、具体的事例を交えながらご紹介します。

「そもそも、なぜクリニックを開業するのか?」「どんな患者に貢献したいのか?」「地域社会の中で、どんな役割を担いたいのか?」

あなたのクリニックの羅針盤となる、唯一無二のコンセプトを創り上げるためのヒントが満載です。「理想のクリニック」という目的地へ辿り着くために、ぜひ第3回をご覧ください。

2025/02/06
著者:鎌形博展
医師、株式会社EN 代表取締役、医療法人社団季邦会 理事長、東京医科大学病院 非常勤医師

東京都出身。埼玉県育ち。
明治薬科薬学部を卒業後、中外製薬会社でMRとなるも、友人の死をきっかけに脱サラして、北里大学医学部へ編入する。
卒業後は東京医科大学病院救命救急センターにて救急医として従事。2017年には慶應義塾大学大学院にて医療政策を学び、MBAを取得。東北大学発医療AIベンチャー、東京大学発ベンチャーを起業した他、医療機器開発や事業開発のコンサルティングも経験。2019年、うちだ内科医院を継承開業。以降、2020年に医療法人季邦会(美谷島内科呼吸器科医院)を継承し、2021年には街のクリニック 日野・八王子を新規開業。2023年には株式会社EN創業。国際緊急援助隊隊員・東京DMAT隊員・社会医学系専門医。趣味はBBQ。43歳で剣道・フェンシングを再開

Visited 63 times, 1 visit(s) today