
損益分岐点(BEP:Break-Even Point)とは、売上と費用が一致し、利益がちょうどゼロになる売上高のことです。クリニックに置き換えると、「診療報酬・自由診療などの医業収入」と「経費(固定費+変動費)」が等しくなる点を指します。この売上高を上回れば黒字、下回れば赤字になります。(出典:ウィーメックス「クリニックの損益分岐点を知って経営に生かす方法は?」、FPサービス)
開業前の勤務医にとって損益分岐点が重要なのは、「1か月あたり、あるいは1日あたり何人の患者を診れば経営が成り立つのか」という具体的な目標ラインが見えるからです。借入返済や生活費まで含めて必要な売上を逆算すれば、事業計画の現実味を客観的に確認できます。
損益分岐点を計算する前提として、経費を「固定費」と「変動費」に分ける必要があります。
固定費は、患者数の増減に関わらず毎月ほぼ一定でかかる費用です。テナントの家賃、スタッフの人件費、医療機器のリース料、広告費、医師会費などが該当します。変動費は、診療量に応じて増減する費用で、医薬品費、診療材料費、検査委託費などが典型例です。(出典:CLIUS「クリニック開業前に知っておきたい損益分岐点とは?」、ユヤマ)
この区分は会計上きれいに二分できるものではなく、実務では「主に固定的か、変動的か」で判断します。分け方によって計算結果が変わるため、税理士など専門家と一緒に整理するのが安全です。
損益分岐点(売上高)は次の式で求めます。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
※変動費率 = 変動費 ÷ 医業収入
たとえば、月あたりの固定費が200万円、変動費率が20%(0.2)のクリニックであれば、損益分岐点売上高は 200万円 ÷(1 − 0.2)=250万円となります。つまり、月商250万円を超えて初めて利益が生まれる計算です。(出典:ウィーメックス、FPサービス)
あわせて知っておきたいのが「損益分岐点比率」です。これは実際の売上に対して損益分岐点売上がどの程度かを示す指標で、低いほど経営に余裕があります。厚生労働省の調査をもとにした指摘では、医療機関の損益分岐点比率は90%程度とされ、一般に医療機関の経営環境は決して楽ではないことがうかがえます。(出典:松吉医療総合「クリニックの利益率はどのくらい?」)
シミュレーションの精度を上げるには、各費用の一般的な目安を知っておくと役立ちます。
人件費率(売上に占める人件費の割合)は、一般に20〜25%程度が適正とされ、25%を超えると要注意、30%を超えると利益が出にくくなると指摘されています。家賃はおおよそ売上の6〜8%が一つの目安です。(出典:CLIUS、ウィーメックス)
ただしこれらはあくまで平均的な水準です。人手を要する在宅医療や自由診療中心のクリニックなど、診療科やビジネスモデルによって適正比率は変わります。自院の方針に合わせて解釈することが大切です。
損益分岐点の考え方は、単発の計算で終わらせず「複数シナリオの収支シミュレーション」に活かすことで真価を発揮します。
具体的には、「人件費が増えた場合」「家賃が想定より高い物件になった場合」「診療報酬が改定で下がった場合」「高額な医療機器を追加導入した場合」など、条件を変えて損益分岐点がどう動くかを試算します。こうした感度分析を行うことで、どのリスクに経営が弱いかが見え、開業資金や運転資金の余裕をどれだけ持つべきかの判断材料になります。(出典:ユヤマ、CLIUS)
なお、本記事の数値はあくまで一般的な目安であり、実際の適正水準や計算方法は診療科・立地・規模・時期によって異なります。事業計画の策定にあたっては、税理士や開業支援の専門家に相談し、自院の前提条件に基づいた試算を行うことをおすすめします。
株式会社ENは、クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップでサポートしています。事業計画の収支シミュレーションから、開業後の数値管理・事務長業務の代行まで、経営の「見える化」を実務面で支援します。「開業計画の数字に自信を持ちたい」「開業後の経営指標を誰かと一緒に見ていきたい」という段階でも、お気軽にご相談ください。
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7医院運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶応義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身