上部消化管内視鏡検査は、もはや消化器疾患の診断に欠かせない検査であり、長年の経験を持つ専門医の先生方にとってはルーチンワークと言えるかもしれません。
しかし、医療技術は常に進化しており、患者の負担軽減、診断精度の向上、そして効率的な検査の実施には、絶え間ない探求が必要です。
本コラムでは、初学者・専攻医の先生方を対象に、上部消化管内視鏡検査の手技における更なるレベルアップのためのヒントと、最新の知見に基づいた情報を提供いたします。
1. 挿入時の工夫:患者の負担軽減と効率的な検査
経鼻内視鏡と経口内視鏡、それぞれにおいて、挿入時の工夫を凝らすことで、患者さんの負担を軽減し、よりスムーズな検査を実現できます。
(1) 経鼻内視鏡の活用
経鼻内視鏡は、嘔吐反射が少なく、患者さんの負担が少ないという点で大きなメリットがあります。しかし、鼻腔の狭さや弯曲による抵抗が課題となる場合もあります。スムーズな挿入を実現するためのポイントは以下の通りです。
- 麻酔: 咽頭麻酔には、リドカインスプレーに加え、キシロカインゼリーなどを併用することで効果を高めることができます。また、鼻腔内にも麻酔薬を塗布することで、鼻腔の痛みや不快感を軽減できます。さらに、少量の血管収縮剤を添加することで、鼻粘膜の腫脹を抑え、出血リスクを低減し、挿入を容易にすることも可能です。
- 潤滑: スコープ先端に十分な量の潤滑剤を塗布することで、摩擦を軽減し、鼻腔への負担を最小限に抑えることができます。水溶性潤滑剤だけでなく、シリコン系の潤滑剤も有効です。
- スコープの軸操作: 鼻腔の構造を理解し、スコープの軸を意識的に操作することが重要です。下鼻道を通過する際には、スコープをやや上方に向けるように意識し、中鼻甲介に接触しないように注意します。また、スコープを回転させることで、鼻腔の弯曲に沿ってスムーズに挿入することができます。
- 患者の呼吸: 患者さんにゆっくりと鼻呼吸をしてもらうことで、鼻腔の抵抗を減らし、挿入をスムーズにすることができます。また、口呼吸をさせないことで、スコープが咽頭後壁に当たりにくくなり、嘔吐反射を抑制することができます。
- 内視鏡の選択: 患者の鼻腔の大きさや形状に合わせて、適切な太さの経鼻内視鏡を選択することが重要です。細径のスコープは挿入時の抵抗が少ないですが、画像の質が低下する可能性があります。
(2) 経口内視鏡における工夫
経口内視鏡では、舌根部への圧迫や嘔吐反射による苦痛を最小限に抑えることが重要です。
- スコープの角度: スコープを舌根部に押し付けるのではなく、やや上方に持ち上げるように意識することで、圧迫を軽減し、嘔吐反射を抑制することができます。また、スコープ先端を常に視野に入れ、食道入口部に向けるように操作することで、スムーズな挿入を実現できます。
- 患者の協力: 患者さんに「唾を飲み込む」「大きく息を吸う」「アーと言う」などの動作を指示することで、咽頭反射を抑制し、挿入をスムーズにすることができます。また、リラックスして口を開けてもらうために、事前に検査の流れを丁寧に説明し、安心感を与えることが重要です。
- 挿入経路: 食道入口部をスムーズに通過するために、患者の頭部を後屈させる、左側臥位をとらせるなどの工夫も有効です。
- マウスピース: マウスピースは、患者の歯によるスコープの損傷を防ぐだけでなく、患者が口を閉じないようにするための役割もあります。適切なサイズのマウスピースを選択し、しっかりと固定することが重要です。
2. 観察時のポイント:見落としを防ぎ、正確な診断を
観察時には、以下のポイントを意識することで、病変の見落としを防ぎ、正確な診断を行うことができます。
- 体位変換: 胃の蠕動を利用し、体位変換を積極的に行うことで、胃粘膜の全周を観察することができます。
- 空気量の調節: 胃内に適切な量の空気を送気することで、胃壁の展開を促し、病変の発見率を高めることができます。
- 過剰な送気: 患者の苦痛を増大させるだけでなく、胃粘膜の蒼白化を引き起こし、病変の見落としにつながる可能性があります。送気圧を調整し、必要最低限の空気量で観察を行うように心がけましょう。
- 送気と吸引: 送気と吸引を繰り返すことで、胃粘膜の動きを活発化させ、隠れた病変を発見しやすくなります。また、粘膜表面の粘液や泡を取り除くことで、より鮮明な画像を得ることができます。
- 色素内視鏡、拡大内視鏡の活用: 通常観察では発見困難な微小病変の診断には、色素内視鏡や拡大内視鏡が非常に有用です。
- 色素内視鏡: インジゴカルミンやクリスタルバイオレットなどの色素を用いることで、粘膜の微細な凹凸を強調し、病変の検出能力を高めます。色素散布の際には、ノズルを粘膜に近づけすぎないようにしたり、カテーテルを粘膜を傷つけないように優しく挿入するなど、粘膜表面に均一に散布されるように、スプレーやカテーテルを適切に操作することが重要です。
- 拡大内視鏡: 粘膜表面を数十倍に拡大することで、微細な血管や腺管構造を観察し、病変の性状を詳細に把握することができます。特に、早期胃がんの診断においては、NBI(Narrow Band Imaging)や拡大内視鏡を用いたピットパターン分類が重要となります。拡大観察を行う際は、焦点距離を調整し、鮮明な画像を得るように心がけましょう。
- 観察の順序: 一定の順序で観察することで、見落としを防ぐことができます。
- 逆行性観察: 食道→胃体→胃角部→幽門前庭部→十二指腸といった順序で観察する方法です。
- 順行性観察: 十二指腸→幽門前庭部→胃角部→胃体→食道といった順序で観察する方法です。
- 記録: 検査 findings は正確に記録し、画像や動画も保存しておくことが重要です。
3. 最新技術の導入:AIの活用
人工知能(AI)は、内視鏡検査の分野においても、診断精度の向上、効率化、医師の負担軽減に大きく貢献することが期待されています。
- リアルタイム診断支援: AIは、リアルタイムで画像を解析し、病変の検出や診断を支援することで、医師の見落としを防ぎ、診断精度を向上させることができます。
- 病変の特徴抽出: AIは、病変の色調、形状、大きさなどの特徴を自動的に抽出し、定量的な評価を行うことができます。これにより、病変の悪性度や進行度をより正確に判断することができます。
- 内視鏡操作支援: AIは、内視鏡の挿入経路や観察部位をガイドすることで、検査の効率化に貢献することができます。
4. 患者とのコミュニケーション
患者との良好なコミュニケーションは、検査の成功に不可欠です。
- 検査前の説明: 検査前に、検査の目的、方法、リスクなどを丁寧に説明し、患者の理解と協力を得ることで、検査をスムーズに進めることができます。また、患者の不安や疑問にしっかりと耳を傾け、安心感を与えることが重要です。
- 検査中の声かけ: 検査中は、優しく声かけを行い、現在の状況や今後の流れを説明することで、患者の安心感を高めることができます。「もうすぐ終わりますよ」「少しだけ我慢してくださいね」といった言葉をかけることで、患者の協力が得やすくなります。
- 検査後の説明: 検査後には、検査結果や今後の治療方針に加え、日常生活における注意点や、次回の検査時期などについても、わかりやすく説明することが重要です。
終わりに
いかがでしたでしょうか?
上部消化管内視鏡検査は、技術の進歩とともに、より精密で患者に優しい検査へと進化を続けています。本コラムが、専門医の先生方の更なる技術向上の一助となれば幸いです。
今後は、専門医・指導医の先生方にもご相談しながら、さらに専門的な内容に入っていきたいと思います。
参考文献
日本消化器内視鏡学会編. 消化器内視鏡ガイドライン 第11版. 医学書院, 2023.
上部消化管内視鏡検査マニュアル 改訂第3版. 金原出版, 2021.
山下裕玄, 他. 人工知能を用いた内視鏡画像診断支援システム. 日本消化器内視鏡学会雑誌, 2022; 59(11): 2737-2744.
内視鏡診断学 改訂第4版. 南江堂, 2023.
上部消化管内視鏡アトラス 第4版. 文光堂, 2022.
2024/12/17
筆者:Gemini Advanced by Google
加筆修正:鎌形博展
医師
株式会社EN 代表取締役
医療法人社団季邦会 理事長
東京医科大学病院 非常勤医師
