近年、世界的に統合医療(東洋医学と西洋医学を組み合わせた医療)が注目される中、中国政府は「中西医結合」を国家方針として推進しています。毛沢東時代から中医学の伝統を守りつつ西洋医学を融合させる教育・研究が進められ、現在では多くの病院や大学が中西医結合の教育モデルを採用しています。例えばWHOは第11版国際疾病分類(ICD-11)に中医学的診断基準を採用し、伝統医学の国際的な認知度も高めています。こうした状況から、中国の医学部で西洋医学と中医学の両方を学ぶ意義は大きく、医学知識の幅を広げたい日本人学生にも大きな魅力となっています。
中国の医学教育制度と「中西医結合」カリキュラムの特徴
中国では1970年代以降、伝統医学を体系化した中医学教育が制度化され、現在では大学本科課程は5年制が基本です。カリキュラムは標準化されており、解剖学・生理学・病理学・内科学などの西洋医学科目と、中医基礎理論・中医診断学・中薬学・方剤学・鍼灸学などの中医学科目が半分ずつ組み込まれています。こうして50%を伝統医学、50%を現代医学が占める教育体系を持つのが中国の中医薬大学の特徴です。中国全土には30校以上の中医薬大学があり、北京・上海・遼寧などの主要都市に名門校が集中しています。さらに西洋医学大学でも積極的に中医学教育が導入されており、103校の医学部のうち89校が約80コマの中医学講義を必修としています。これは中国政府が中西医結合を強力に推進している方針によるものです。法律面でも「中医薬条例」で中医学と西洋医学を同等に重要視し、共同で発展させることが規定されており、教育の場でも両者の統合が徹底されています。
西洋医学と中医学が学べる代表的な大学
北京中医薬大学(Beijing University of Chinese Medicine)
1956年創立の伝統医学の老舗で、国家重点大学(211工程)にも指定されています。中医学と鍼灸マッサージ学を中心に、独自に編成された5年制の本科課程では「中国・西洋医学」という統合分野も学べます。中国医学を学びたい留学生が多く集い、キャンパス内では中国伝統医学と最新研究の両方に触れられる環境が整っています。
以前、北京中医薬大学内にある「中医薬博物館」を訪れたのですが、中医学の歴史や著名な医師、中医薬について詳しく学ぶことができ、とても勉強になりました!また、写真のご飯は友人おすすめの学内食堂のメニューで、もし訪れる機会があればぜひ試してみてください。





上海中医薬大学(Shanghai University of Traditional Chinese Medicine)
こちらも1956年設立の中医薬大学で、上海市が重点建設するトップレベル大学です。1300名以上の教職員(うち教授・准教授700名超)と約8000名の学生を擁し、学科には中医学・中薬学・中西医臨床医学(中医学と西洋医学を結合した臨床医学)など18専攻が含まれています。教育部の学科評価では中医学・中薬学・中西医結合学の3学科がいずれも最高評価(A+)を獲得しており、統合医学教育の質の高さが認められています。
南京中医薬大学(Nanjing University of Chinese Medicine)
江蘇省と国家中医薬管理局が共同運営する地方重点大学で、中国最初期の漢方学校の一つです。医学・薬学・看護学など複数の学部を持ち、中医薬を主体に西洋医学との融合を図る教育・研究を行っています。
上記以外にも、広州中医薬大学や成都中医薬大学、天津中医薬大学など、各地に歴史ある中医薬大学があり、いずれも中西医結合カリキュラムを採用しています。
留学準備とメリット・注意点
中国での中医学留学に向けては、まず留学先の大学・コースを選び、中国語学習や必要な試験(HSKなど)に取り組むことが重要です。入学申請や留学ビザの手続き、渡航チケットや留学保険の手配などの準備も必要で、留学エージェントや大学の国際部から案内を得るのが一般的です。現地では中国語授業が中心となる大学が多いため、専門用語を含めた語学力の向上を意識しましょう。メリットとしては、中国の医学部で西洋医学と中医学の両方を体系的に学べるほか、多様な文化・医療実践に触れることが挙げられます。幅広い人脈ができる国際交流の機会でもあり、将来のキャリアにもプラスになります。一方、注意点としては言語や文化・生活環境の違いです。食生活や衛生環境が日本と異なるため健康管理にも気を付ける必要があり、中国の教育スタイルや試験方式に慣れる心構えも必要です。ただし注意が必要なのは、中国で取得した国家資格は中国国内でのみ有効であり、日本では医師資格として認められないため、そのまま日本の臨床現場で活かすことはできない点です。
まとめ
中国の中医薬大学では、政府主導の「中西医結合」教育カリキュラムの下で、西洋医学と伝統中医学の両方を学べる点が大きな特徴です。日本では触れる機会の少ない知識や視点に触れる機会となることもあり、中医学や統合医療に関心のある方にとって、一つの進路選択肢として検討する価値はあるでしょう。豊かな伝統と先端医療が共存する中国の学びの場で得られる経験は、将来の医療活動の幅を広げるヒントになるかもしれません。
参考資料
- 中西医結合(中医学と西洋医学の融合)について
- 近代中西結合医学について研究討論!上海中医薬大学研修生来校!
- 近代の中医学の発展について
- 高鵬飛,宗形佳織,詹睿,今津嘉宏,松浦恵子, 相磯貞和,渡辺賢治.日中の伝統医学教育システムの相違. 日本東洋医学雑誌. 2012;63(2):131-137.
- https://shorturl.at/BgN38
- https://shorturl.at/rmE14
- https://shorturl.at/HkNVV
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