中国のトップレベル中医薬大学で学ぶ5年生の医学生にインタビュー。中医学と西洋医学を統合的に学ぶ日々、医師を志した理由、学生生活のリアルな苦労、印象的な臨床体験、そして中国医療の変化まで、未来の医師としての想いとビジョンを語ってもらいました。

プロフィール

中国国内の中医薬大学の中でもトップクラスに位置する大学に在学中で、現在5年生です(大学は5年制)。卒業後は、三甲医院(中国の病院格付け制度において最も高い等級にあたる病院)にて、规培生(日本でいう初期臨床研修医に相当)として勤務する予定です。

医学部を目指した理由と背景

医学部を目指すようになったのは、どんな経験や思いがあったからですか?

医学部を目指す理由は2つあります。]

  1. 家庭背景
    祖父と父は中医学の医師、母は西洋医学の医師という医療一家に育ちました。日常生活の中で中医学の考え方に触れ、自然と医学への関心を深めていきました。中医学と西洋医学それぞれの強みを生かした治療の可能性に魅力を感じ、両方を体系的に学べる現在の医学部への進学を決意しました。
  2. 高尚な職業としての魅力
    人の役に立てるだけでなく、自分自身も医師として成長し続けられる職業である点に強く惹かれています。

今の大学を選ぶときに大切にしていたこと、こだわったポイントはありますか?

大学選びのポイント

私が大学を選ぶ上で重視したのは、
1.知名度
2.専門分野でのランキング
3.立地条件

特に現在の大学を選んだ理由
  1. 中医学教育において国内最高水準の環境
    中医学への強い関心があった私は、その学びに最適な環境を求めて大学を選びました。中国国内の中医薬大学の中でも、現在の大学は学術的評価、教育体制ともにトップクラスです。中医学を体系的かつ専門的に学べることに加え、西洋医学も同時に修得できるカリキュラムが整っている点に大きな魅力を感じました。
  2. 中医学を受け継ぐ家族の影響
    祖父と父は中医学の医師、母は西洋医学の医師という医療一家に育ち、特に中医学は家族に代々受け継がれてきた存在でした。日常の中に中医学の考え方が自然と溶け込んでおり、その影響を受けて、私も家族の伝統を継ぎたいと思うようになりました。
  3. 中西医を融合し、患者に最適な治療を届けたい
    現在のカリキュラムでは、中医学と西洋医学の両方の視点から病気を理解し、治療法を選択する力が養われます。
    例えば総胆管結石の場合、小さな結石なら中薬による排石・縮石を試み(ただし、効果が出るまでには時間がかかることもあります)、大きく症状が重い場合は内視鏡治療や手術を選択します。さらに中医学の体質改善や再発予防の強みも活用できます。このように中医学と西洋医学、それぞれの特性を活かしながら状況に応じて使い分けることで、より納得度の高い、患者本位の医療を実現できると感じています。

学生生活での苦労と工夫

医学部生活で一番苦労したこと、それをどう乗り越えたかを教えてください。

特に苦労したことは2つあります。

  1. 二つの医学体系を同時に学ぶ難しさ
    中医学と西洋医学は診断・治療のアプローチが根本的に異なるため、当初は知識の整理に苦労しました。しかし、臨床現場で実際の症例を通じて両方の視点から病気を理解することで、それぞれの特長と適用場面を体得し、統合的な理解を深めることができました。
  2. 臨床と研究の両立させる難しさ
    中国では、臨床能力に加えて、科研(科学研究)が昇進や評価において非常に重視されます。いくら臨床能力に長けていても、論文や学術成果がなければステップアップは難しいのが現実です。そのため、多くの医学生は朝から病院で診療を行い、夜は研究活動に取り組むという多忙な生活を送っています。私の大学では、卒業時に自身で研究テーマを設定し、論文の執筆から発表までを行うことが必須とされており、限られた時間の中で成果を出す力と集中力が常に求められています。そうした環境の中で、自分自身を高める努力を続けてきました。

勉強や実習で自分なりに工夫していること、モチベーションを保つコツがあれば教えてください。意識して身につけようとしているスキル・能力は?

学習の工夫

症例ベースの学習を重視し、机上の知識を実際の患者さんとの接触を通じて実践的な理解につなげています。理論と実践を結びつけることで、より確かな知識として定着させています。

モチベーションを保つ秘訣
  1. 大学の高い学術水準に応えたいという使命感
  2. 患者さんと向き合う中で感じる、知識と技術習得への責任感

これらが、日々の学びを支える原動力となっています。

特に高めたい技能・能力
  1. 英語力
    論文の多くが英語で書かれているため、スムーズに読解できるよう英語力を向上させたい。
  2. 2.研究(科研)能力
    将来のキャリアや卒業要件においても求められるため、研究を進める力を高めたい。

医療現場での印象的な体験

実習や見学の中で、今でも心に残っている出来事があれば教えてください。

  1. 循環器内科(心臓内科)での初めての救命対応
    実習中に初めて循環器内科(心臓内科)での救急対応に立ち会った際、担当していた患者さんがその場で亡くなられるという経験をしました。どれだけ尽力しても救えない命があるという現実を目の当たりにし、大きな衝撃を受けました。同時に、限られた時間の中で冷静に判断し、対応することの難しさと重要性を痛感しました。この経験を通じて、今後も一つひとつの命と真摯に向き合いながら医療に携わっていきたいという思いを強くしました。
  2. 救急外来での初めての動脈血ガス採取
    初めての動脈血ガス採取では、技術的な難しさに加え、患者さんの状態を迅速かつ正確に把握する重要性を学びました。単なる手技の習得だけでなく、患者さんへの配慮や適切なタイミングの判断など、総合的な臨床能力の必要性を実感しました。

人柄・価値観がわかる問い

あなたが大切にしている信念や、「こんな人間でありたい」という思いがあれば教えてください。

私が最も大切にしているのは、「患者さん一人ひとりに最適な医療を提供する」という信念です。

中医学と西洋医学の知識を活かし、症状や体質に応じて最も効果的な治療法を選択できる医師になりたいと考えています。また、研究実績や昇進も重要ですが、何よりも「臨床能力の向上」を最優先に考え続けたいと思います。

患者さんにとっても、私自身にとっても納得できる質の高い医療の実現が、私の目指す医師像です。

将来のビジョン

将来、どんな分野や地域で、どんなふうに患者さんと関わりたいと考えていますか?(どんな医師になりたいか)

専門分野と診療スタイル

中医消化器内科を志望しています。症例に応じて柔軟に治療選択を行い、患者さんのQOL向上に貢献したいと考えています。 診療では常に患者さんの立場に立ち、医学的根拠をわかりやすく説明することで、安心して治療を受けていただける信頼関係を築きたいと思います。

他国で働くことへの興味や選択肢について

中医学の専門性や医療制度の違いを考慮すると、現段階では中国国内での経験積み重ねが最も現実的だと判断しています。シンガポールでの勤務も検討しましたが、資格認定や生活基盤の面で課題が多いと感じました。そこで当面は中国国内で医師免許を取得し、確実な臨床経験と研究実績を積むことに集中したいと思います。しっかりとした基盤を築いてから、将来的には国際的な医療活動も視野に入れていきたいと考えています。

中国の医療

今の中国医療現場で、医師に最も求められている力は何だと感じますか?

中国で医師として活躍するために必要だと感じる能力や素質について教えてください。また、学生のうちに身につけておくべきスキルや考え方があればあわせて教えてください。

医師に求められる能力
  1. 確かな専門知識と技術:診断・治療の基盤となる能力。
  2. 高い職業倫理:患者利益を最優先とする誠実な姿勢。
  3. 強靭な精神力:ストレスの多い環境でも心を乱されず、冷静に判断・対応できる強いメンタル。
  4. 医療政策や制度への理解:中国の医療保険制度(医保)や、輸入薬・国産薬がどこまで保険適用になるか、自己負担割合(报销比例)などについても正しく理解しておく必要があります。これにより、患者にとって現実的かつ負担の少ない治療選択が可能になります。
特に高めたい技能・能力
  • 英語力:論文の多くが英語で書かれているため、スムーズに読解できるよう英語力を向上させたい。
  • 研究(科研)能力:将来のキャリアや卒業要件においても求められるため、研究を進める力を高めたい。

中国の医療現場では、どのような医師が“信頼される”“評価される”と感じますか?

  1. 名誉や肩書きのある医師:有名病院での勤務歴や優れた学歴を持つ医師は、患者から高い信頼を獲得しやすい。
  2. 良い評判と口コミを持つ医師:「親身で丁寧」「患者の立場で考える」「臨床能力が高い」といった患者評価を得た医師は、口コミで自然と信頼が広がり、推薦される存在になる。
  3. 高い臨床能力をもつ医師:正確な診断力と高い治療技術を持つ医師は、患者と同僚の両方から高く評価され、信頼の基盤となる実力を証明している。
  4. 高い職位(職称)を持つ医師:主任医師などの職称は専門性と豊富な経験の証明として機能し、周囲からの信頼獲得に直結している。

近年の中国医療の変化(AI導入、地域医療の発展など)を学生としてどう感じていますか?

AI導入について

現場で直接目にする機会はまだ限られており、具体的な影響は実感していません。

基層医療(社区医療)の発展

一方で、基層医療(社区医療)の発展については、日々その変化を強く感じています。以前は熱や風邪など小さな病気でも大きな病院に患者が殺到しておりましたが、現在は大きい病院の医療資源を奪わないように、小さな病気だと社区医疗を利用する動きが増えています。北京などの大都市においては社区医療の水準も高く、信頼できる診療が受けられる体制が整いつつありますが、農村部ではまだ発展途上の地域も多く、地域格差が残されているのが現状です。制度面では、近年、「制层医療人材の育成」を目的に、修士課程修了後、1年間の社区医療勤務を経て優秀な成績を収めれば、試験なしで博士課程に出願できる制度が導入されています。ただし、この制度の活用には指導医の推薦と受け入れ先の確保が必須条件となっており、詳細な要件は各大学や地域によって設定が異なります。

日本をはじめとする他国の医学生と交流したことがあれば、その経験を通じて感じた違いや学びについて教えてください。

日本の医学生との交流では、医療に対する真摯な姿勢や患者さんへの思いやりなど、多くの共通点を発見し、互いにいい刺激を受ける関係でした。一方で、中国の競争の激しさ(内卷)と比較して、よりバランスの取れた学習環境を羨ましく感じました。また、日本では医師の人柄や対人能力も重視される点が印象的で、技術だけでなく人間性も大切にする姿勢を学びました。

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