中国におけるオンライン診療・在宅医療の最新動向を解説。市場規模、政府の方針、主要企業の取り組み、AIやIoT技術の活用まで、急成長する中国のデジタルヘルスの今をわかりやすく紹介します。
政策背景と制度整備の進展
中国では2010年代半ばから医療のオンライン化を国家戦略として推進しています。政府は2015年にインターネット専用病院の開設を許可し、オンライン診療市場が本格始動しました 。その後、「互聯網+(インターネットプラス)」政策や五カ年計画においてヘルスケアIT化を重点分野と位置づけ、高速通信網(4G・5Gなど)の整備も戦略的に進められました 。新型コロナ下の2020年にはオンライン診療を公的医療保険の適用対象に明確化し、利用促進を図る一方で安全性確保のための監督ガイドライン策定も進めました 。また同年2月には中国初の公立病院によるインターネット専門病院(上海市の復旦大学付属中山徐匯雲(クラウド)病院)が登場しました。 各地の大病院が相次いでオンライン診療システム(いわゆる「インターネット医院」)を導入しています。これをきっかけに、全国各地の大病院でも次々とオンライン診療の仕組み(=インターネット医院)が導入され、同年1月から9月の間だけで244の病院が新たにインターネット医院を開設。全国ではすでに1000以上のオンライン病院が稼働していると報告されています。さらに処方薬のネット販売も解禁され、オンライン診療後に自宅へ薬が配送される仕組みも実現しました 。近年では「スマート医院」建設も提唱され、オンラインとオフラインを融合した新しい医療サービスモデルの模索が進んでいます。また現在も、中国政府はオンライン診療を含む医療のデジタル化と、その管理体制の高度化を積極的に進めています。
主要企業・プラットフォームの動向
中国のオンライン医療市場は、政府の後押しを背景にテック大手や新興企業が牽引しています 。代表的なプラットフォームは以下のとおりです。
阿里健康(Ali Health)


EC大手アリババ系。オンライン診療や医薬品ECを展開。2021年3月期時点で登録医師数約6万人(前年から4割増) 、アプリ利用者は約3〜5億人規模に達しています 。
京東健康(JD Health)


EC大手JD系。プラットフォーム上で健康相談や遠隔診療を提供。2020年の登録医師数は約11万人で、前年の12倍に急増しました 。診察料は15分あたり50~1000元程度と公立病院(10~50元程度)より高めですが、有名医師による診療が受けられる利点があります 。
平安好医生/平安健康(Ping An Good Doctor)


保険大手の平安集団系。自社専属の医師チームも抱え、AIで患者の症状に合う医師を紹介する機能などを備えています 。2021年ごろにアプリ利用者は約3〜5億人規模 。健康相談から処方箋発行・薬配送、保険連携までワンストップで提供しています。
微医(WeDoctor)


医療IT分野の新興企業。もともとオンライン予約サービスから始まり、約24万名の医師が登録 。2022年時点で、自ら全国に27か所のクリニックや病院を運営しオンライン診療にも対応するほか、提携病院1万軒超と連携しています 。ユーザー数は2億2千万以上、その内有料会員が2,500万人/月に上る規模です 。
いずれのサービスでも医師が対応する健康相談、オンライン診療、最寄りの病院の診察予約、病院紹介、病歴管理、処方箋の発行、処方薬の販売と配送、慢性病の管理、公的医療保険や民間の医療保険の利用等が利用できます。
市場規模と成長見通し
コロナ禍で需要が爆発した中国のオンライン診療市場は、近年著しい成長を遂げています。2020年のオンライン医療サービス市場規模は約1,960億人民元(約3.4兆円)に達し、前年から46.7%増加しました 。デジタル技術を活用した広義の医療関連市場規模としては同年3,140億元(約5.2兆円)に上るとの試算もあり 、いずれにせよ日本を上回るスピードで拡大しています。オンライン診療の普及により、2021年6月時点で遠隔診療の月間アクティブユーザー数は約1,583.9万人に達しました 。今後も高成長が見込まれており、一部予測では2030年に市場規模4.2兆元と2020年比で約13倍に膨らむとの試算が報告されています 。政府も医療インフラ拡充と規制緩和を継続しており、市場の一段の拡大が期待されています 。
在宅医療
中国政府は地域の家庭医と住民が契約を結ぶ「家庭医契約制度(家庭医生签约服务)」を推進しており、高齢者や慢性疾患患者を優先対象に訪問診療の体制整備を進めています 。2022年にはカバー率を2035年までに75%以上に引き上げる目標が示されました。
また、独居高齢者への訪問サービス提供を全国で義務付けるなど、在宅での健康チェックや介護と診療の連携にも注力しています 。しかし、住民のサービス認知不足や病院志向により家庭医の契約率・利用率は伸び悩んでいます。また、全科医(家庭医)の人手不足で一人当たりの担当世帯が多く、十分な訪問診療が困難な場合もあります 。さらに、報酬や評価制度の不備から医師が契約患者を増やすことに消極的になる傾向も課題です 。こうした中、遠隔診療(インターネット病院)の普及により、オンライン相談と訪問診療を組み合わせたハイブリッド型のケアも広がりつつあります 。
オンライン診療・在宅医療の利点と課題
微医などのオンライン医療プラットフォームはアプリ上で診療予約から決済・薬配送まで完結できる。

主な利点
オンライン診療の発展により、患者は時間や場所を選ばずに診療を受けられるようになりました。従来は風邪程度でも大病院で半日がかりだった診察が、今ではスマートフォン上で予約・ビデオ診療・決済まで完了し、処方薬も自宅に配送されます。これにより病院の長蛇の列や待ち時間といった“不便”が大きく解消され、ユーザーの利便性が飛躍的に向上しました。また、著名専門医の診察を遠隔で受けられる点も大きなメリットです。地方や慢性疾患の患者でもオンラインで都市部の名医にアクセスでき、通院負担の軽減と医療資源の効率的活用につながっています。実際、オンライン化によって慢性疾患患者の通院頻度を減らし在宅療養へ切り替えることが可能となり、医療従事者の負担軽減や院内感染リスク低減にも寄与しました。蓄積された医療データをAIで分析し、症状に合った医師を紹介するサービスなどデータ活用による高度な医療も進み始めています。
主な課題
一方、オンライン診療の拡大に伴う課題も指摘されています。まず診療の質と安全性です。遠隔で患者を診察する分、対面診療に比べ誤診リスクや緊急時の対応などに不安の声があり、中国でも診療ミス防止のガイドライン整備はまだ進展しているところです。政府は監督管理の強化策を打ち出していますが、医療関係者からは対面を介さない診断の正確さに懸念も残ります。また都市部と地方・高齢者とのデジタル格差も課題です。現在、オンライン医療サービス利用者は若年層・都市部・高所得者に偏り、農村部や高齢者への浸透は十分ではありません。 高齢化が進む中国では在宅医療ニーズも高く、ある調査では訪問診療を望む高齢者が全体の3割近くに上りました。オンライン診療と訪問診療を組み合わせ、高齢者が自宅で適切なケアを受けられる体制づくりも今後の課題と言えます。さらに、市場拡大に伴う医師資源の偏在も懸念されています。人気医師に患者が集中しやすく、一部ではプラットフォーム間で医師の争奪戦も起きています。医師の待遇や診療報酬の適正化、オンラインとオフライン医療の役割分担など、持続可能な医療提供体制の構築が求められています。
参考
1. コロナ後の中国オンライン診療市場
2. 中国のオンライン医療サービス市場の現状 – 中国ビジネスCOMPASS
3. オンライン診療の先進国 中国の事情を覗いてみた
4. オンライン診療は日本で根付くのか? 〜中国では医師争奪〜
5. 家庭医制度に関する改革
6. 中国の高齢者の生活実態調査、約9割が在宅ケアを選択
7. 家庭医生签约服务
8. 中国オンライン・オフラインクリニック事業者Yaeher Healthへの出資参画 | 2023年 | トピックス | 三井物産株式会社
9. 中国城市报 – 尽快补齐家庭医生签约服务的短板
10. 中国、2025年までに基礎高齢者ケアシステムのガイドラインを発表
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