クリニックを開業したものの、「なかなか患者さんが集まらない…」という悩みは、多くの開業医が直面する課題です。どんなに優れた医療技術や設備を持っていても、患者さんに知ってもらい、選んでもらわなければ、クリニック経営は成り立ちません。

本記事では、クリニックの集患戦略について、マーケティングの「AISAS(アイサス)の法則」に沿って、具体的な方法や注意点を詳しく解説します。開業前の基盤づくりから、効果的な情報発信、そして患者さんとの良好な関係構築まで、実践的なノウハウをお伝えします。

AISASの法則とは?

AISAS(アイサス)とは、インターネットが普及した現代において、顧客が商品やサービスを購入するまでの心理的なプロセスを説明するフレームワークです。クリニックの集患においても、この法則に沿って戦略を立てることで、効果的なアプローチが可能になります。

  • Attention(注意): 患者さんの注意を引きつける
  • Interest(興味): 患者さんの興味関心を惹きつける
  • Search(検索): 患者さんがクリニックについて検索する
  • Action(行動): 患者さんに来院という行動を起こしてもらう
  • Share(共有): 患者さんがクリニックについての情報を共有する

この流れを意識しながら、段階的に集患戦略を構築していきましょう。

1. 基礎固め:開業エリア、物件、コンセプト、ターゲティング

集患戦略を考える上で、土台となるのが、開業エリア、開業物件、コンセプト、そしてターゲティングです。これらを丁寧に検討し、しっかりと固めることが、効果的な集患の第一歩となります。

開業エリアの綿密な調査

開業エリアの選定は、クリニックの将来を大きく左右します。人口統計分析では、エリア内の人口密度と年齢構成、将来的な人口動向、昼間人口と夜間人口の差異などを調査しましょう。競合状況の把握も重要です。同一診療科のクリニックの数と分布、大型病院との位置関係、競合クリニックの特色や強み・弱みを分析します。

さらに、地域住民のニーズ調査として、地域特有の健康課題や疾患傾向、現在充足されていない医療ニーズなどを把握することが大切です。最適なエリア選定のためには、数値データだけでなく、実際にエリア内を歩いて観察したり、地域住民と交流したりすることも重要です。

患者さんに選ばれる開業物件

開業エリアが決まったら、次は具体的な物件選びです。アクセスの良さは集患の基本となります。駅やバス停からの距離、主要道路からの視認性、周辺の商業施設との位置関係などを評価しましょう。

建物の特性も重要な要素です。外観の印象と視認性、1階物件か上層階か(診療科による適性の違い)、バリアフリー対応の状況などを検討します。内部構造と拡張性についても、待合室や診察室の配置の自由度、将来的な拡張の可能性、導入予定の医療機器に適した構造かどうかを確認しましょう。

物件選びでは、「患者さんの目線」で考えることが重要です。「ここなら通いやすい」「入りやすい」と感じてもらえる物件が、集患に有利に働きます。

明確なクリニックコンセプトの構築

数多くのクリニックの中から選ばれるためには、明確なコンセプトが不可欠です。診療理念の明確化として、どのような医療を提供したいのか、医師としての信念や価値観、患者さんに提供する価値を言語化しましょう。

強みの設定も重要です。院長の専門分野や得意な治療法、導入する特徴的な医療機器、他院にない独自のサービスなど、差別化ポイントを明確にします。さらに、クリニック名とロゴデザイン、内装や外装のテーマ性など、視覚的な表現も一貫性を持たせましょう。

コンセプトは、一貫性を持って表現することが重要です。「言っていること」と「やっていること」にズレがあると、患者さんの信頼を失います。コンセプトに基づいた一貫した体験を提供できるよう、スタッフ全員で共有しましょう。

ターゲット患者層の具体化

すべての患者さんをターゲットにするのではなく、クリニックの特性や強みを活かせる特定の層に焦点を当てることで、効果的な集患が可能になります。人口統計的特性として、年齢層、性別、家族構成、職業や勤務形態などを考慮しましょう。

地理的特性も重要です。徒歩圏内の住民、通勤・通学経路上の人々、周辺企業の従業員など、物理的な距離感でセグメントを考えます。さらに、予防医療に関心の高い健康志向層、利便性重視派、高品質な医療サービスを求める層など、行動・価値観による分類も効果的です。

ターゲットを具体的に設定することで、広告メッセージの作成や情報発信チャネルの選択が明確になります。ただし、ターゲットを絞ることは、他の患者さんを排除することではなく、マーケティングリソースを効率的に配分するための戦略です。

2. Attention & Interest:知ってもらう!興味を持ってもらう!

クリニックの存在を知ってもらい、興味を持ってもらうためには、様々な方法で情報を発信する必要があります。各チャネルの特性を活かした効果的な情報発信を行いましょう。

クリニックホームページの充実

現代の集患において、ホームページは最も重要なツールの一つです。基本情報の明確な提示として、クリニック名・診療科目、住所とアクセス方法、診療時間・休診日などを分かりやすく掲載しましょう。

医師・スタッフ紹介では、医師の経歴・専門分野・資格、人柄が伝わる写真や自己紹介、スタッフの紹介と役割などを掲載します。診療内容の詳細説明として、得意とする疾患や症状、治療方法や医療機器の紹介、治療の流れや所要時間などを具体的に伝えましょう。

ホームページは単なる情報掲載の場ではなく、クリニックの「顔」として機能します。デザイン性と使いやすさを両立させ、定期的に更新することで、患者さんの興味を継続的に喚起しましょう。また、SEO対策も重要です。地域名+診療科目+症状名などの検索キーワードで上位表示されるよう、適切な対策を講じましょう。

医療ポータルサイトの活用

多くの患者さんは、医療機関を探す際に医療ポータルサイトを利用します。病院なび、EPARK、メディカルノート、QLife、アスクドクターズなど、主要なポータルサイトに登録し、情報を充実させましょう。

プロフィール充実のポイントとして、基本情報の正確な入力、魅力的なクリニック写真の掲載、医師の専門性や治療方針の明記などが挙げられます。差別化要素の強調として、特徴的な設備やサービス、診療時間の柔軟性、予約システムの利便性などをアピールしましょう。

ポータルサイトでは、口コミや評価が非常に重要な役割を果たします。好意的な口コミを増やすためにも、来院した患者さんに満足いただけるサービスを提供し、適切なタイミングで口コミ投稿を促すことも検討しましょう。

SNSを活用した情報発信

SNSは、クリニックの日常や雰囲気を伝えるのに適したチャネルです。とくに自由診療領域においては重要な取り組みになります。Instagramでは、クリニックの内装や設備の写真、スタッフの日常風景などのビジュアル重視のコンテンツが効果的です。Facebookでは、クリニックからのお知らせ、健康コラムや医療情報、地域イベントへの参加報告などが適しています。

Twitterでは、タイムリーな情報発信(インフルエンザ流行など)、診療時間変更などの告知に活用できます。YouTubeでは、クリニック紹介動画、院長による健康講座、治療の流れや説明動画などのコンテンツが効果的です。

SNSでは、医療の専門性だけでなく、クリニックやスタッフの「人間味」を伝えることで、親しみやすさや信頼感を醸成できます。ただし、患者のプライバシーには最大限配慮し、医療機関としての品位を保った投稿を心がけましょう。

紙媒体と地域コミュニティの活用

デジタル時代においても、特に地域密着型のクリニックでは、チラシやパンフレットなどの紙媒体による情報発信も効果的です。開業案内チラシでは、開業日と診療開始時間、診療科目と得意分野、医師のプロフィールと写真などを掲載しましょう。

地域コミュニティとの連携も重要です。健康フェアや祭りへの出展、無料健康相談コーナーの設置など、地域イベントへの積極的な参加を通じて、クリニックの認知度を高めましょう。また、町内会や自治会との連携、学校や保育園での健康講話など、地域団体との協力関係を構築することも効果的です。

地域との連携は、単なる集患活動を超えて、クリニックの社会的役割を果たす重要な活動です。地域の健康を支える存在として認知されることで、長期的な信頼関係を構築できます。

3. Search:検索してもらう!

興味を持った患者さんは、インターネットでクリニックについて検索します。検索した際に適切な情報に辿り着けるよう、効果的な対策を施しましょう。

SEO対策とMEO対策

SEO(検索エンジン最適化)は、クリニックのホームページが検索結果で上位表示されるための重要な施策です。キーワード戦略として、地域名+診療科目(例:「渋谷区 皮膚科」)、症状+クリニック(例:「ニキビ治療 クリニック」)などの組み合わせを意識しましょう。

コンテンツ充実として、診療内容の詳細な説明、症状別の原因と治療法の解説、患者さんの疑問に答えるQ&Aなどを定期的に更新します。技術的対策も重要です。モバイルフレンドリーなサイト設計、表示速度の最適化、適切なHTMLタグの使用などを実施しましょう。

MEO(Map Engine Optimization)は、Googleマップなどの地図検索での表示順位を向上させる対策です。Googleビジネスプロフィールの最適化として、正確な基本情報(住所、電話番号、営業時間)、カテゴリと属性の適切な設定、高品質な写真の複数掲載などを行いましょう。

口コミ対策も重要です。来院患者さんへの口コミ投稿の促進、すべての口コミへの丁寧な返信、否定的な口コミへの適切な対応などを心がけましょう。スマートフォンで「近くのクリニック」などと検索する患者さんは増加傾向にあります。MEO対策を適切に行うことで、こうした即時性の高い検索からの集患が期待できます。

リスティング広告の活用

即効性のある集患施策として、リスティング広告(検索連動型広告)の活用も検討しましょう。キーワード選定のポイントとして、「地域名+診療科目」の組み合わせ、症状や治療法に関連するキーワード、競合が少なくコストパフォーマンスの高いキーワードなどを選びましょう。

広告文作成のコツとして、クリニックの強みや特色を簡潔に伝え、具体的なメリットや差別化ポイントを強調し、「予約受付中」「土日診療」などの訴求ポイントを含めましょう。地域ターゲティングとして、診療圏内の地域に絞った配信設定、時間帯による配信調整、デバイス別の入札調整などを行うことで、費用対効果を高めることができます。

リスティング広告は即効性がある反面、継続的なコストがかかります。効果測定を定期的に行い、投資対効果を検証しながら運用しましょう。

4. Action:来院してもらう!

検索した情報を参考に、患者さんはクリニックに来院するかどうかを検討します。来院の障壁を下げ、行動を促すための工夫を取り入れましょう。

心理的ハードルを下げる工夫

クリニックに足を運ぶことに対する不安や抵抗感を軽減するための工夫が重要です。分かりやすい情報発信として、医療専門用語を避けた平易な説明、初診の流れや所要時間の明示、費用の目安や保険適用の説明などを心がけましょう。

親しみやすさの演出として、医師やスタッフの笑顔の写真、カジュアルでやさしい雰囲気のデザイン、患者さんの声や体験談の紹介などが効果的です。不安要素の排除として、「痛みの少ない治療」など不安点への言及、感染対策や清潔管理のアピール、プライバシー配慮の説明などを行いましょう。

初めて受診する医療機関への不安は誰にでもあるものです。その不安を理解し、事前に解消するような情報提供を心がけましょう。

利便性の向上と院内環境の整備

来院のしやすさは、クリニック選択の重要な判断材料です。予約システムの充実として、24時間対応のオンライン予約、LINEやアプリを活用した簡単予約、リマインダーメールやSMSの送信などを導入しましょう。

待ち時間の軽減として、予約制度の徹底、待ち時間の目安表示、順番待ちアプリの導入なども有効です。診療時間の工夫として、早朝・夜間診療の実施、土日・祝日の診療、昼休み時間の短縮など、患者さんのライフスタイルに合わせた対応を検討しましょう。

快適な院内環境も重要です。十分な座席数と快適な椅子、適切な温度・湿度管理、リラックスできる音楽や照明などを整備しましょう。特定ニーズへの対応として、キッズスペースや授乳室、高齢者向けの座りやすい椅子、車椅子対応のバリアフリー設計なども考慮します。

院内環境は、医療の質と同様に、患者さんの満足度に直結する重要な要素です。定期的に患者さんの声を聞き、改善を重ねていきましょう。

5. Share:共有してもらう!

来院した患者さんの満足度が高ければ、SNSや口コミサイトで情報を共有してくれます。また、家族や友人に紹介してくれる可能性も高まります。

患者満足度の向上と口コミの促進

共有してもらうためには、まず患者さんに満足いただける医療サービスを提供することが大前提です。丁寧な診療と説明として、十分な診察時間の確保、分かりやすい説明と情報提供、患者さんの質問に丁寧に回答することが重要です。

スタッフの接遇教育として、笑顔と丁寧な言葉遣い、患者さんへの気配りと声かけ、プライバシーへの配慮などに取り組みましょう。診療後のフォローとして、治療後の経過確認の連絡、定期検診の案内、季節の挨拶状や健康情報の送付などを行うことで、継続的な関係構築が可能になります。

満足いただいた患者さんに口コミ投稿を促すことも効果的です。治療が一段落したタイミングや、患者さんから感謝の言葉をいただいたときなど、適切なタイミングで口コミの投稿をお願いしましょう。投稿方法の案内として、投稿先サイトへのリンクを記載したカードやQRコードでの誘導などが有効です。

口コミ投稿の依頼は、強制的にならないよう配慮しましょう。また、投稿いただいた口コミへの感謝の意を示し、指摘事項があれば迅速に対応することで、さらなる信頼関係の構築につながります。

6. 広告戦略と地域連携

集患戦略を補完する手段として、効果的な広告戦略と地域連携も重要です。

効果的な広告の活用

WEB広告として、Google広告やYahoo!広告など、ターゲット層に合わせた配信を検討しましょう。キーワード選定や広告内容を工夫し、オンライン予約への導線を明確にすることで、効果を高めることができます。

看板広告も効果的です。駅や交差点など、視認性の高い場所に看板を設置し、デザインやキャッチコピーを工夫して、通行人の目を引くようにしましょう。クリニック名や診療科目を分かりやすく表示することで、記憶に残りやすくします。

地域との連携強化

地域の医療機関との連携も重要です。病院やクリニックと連携し、患者さんの紹介を受けることで、安定した患者層を確保できます。開業時には必ず近隣への挨拶やお葉書を出しましょう。基幹病院主催の懇親会・勉強会への出席も重要です。

健診や予防接種などの事業を伸ばすために、地域の企業に訪問し、従業員の健康管理に関する情報提供や連携を提案することも有効です。

地域貢献活動として、健康セミナーの開催、無料健康相談会の実施、地域イベントへの医療スタッフの派遣なども検討しましょう。地域に根ざした活動を通じて、クリニックの認知度と信頼性を高めることができます。

まとめ

集患戦略は、一度実施して終わりではなく、継続的な取り組みが必要です。定期的に効果を測定し、改善を重ねていくことが重要です。

患者さんのニーズや地域の環境は常に変化しています。定期的なアンケートや口コミの分析、競合状況の把握など、情報収集を怠らず、柔軟に戦略を調整していきましょう。また、スタッフ全員が集患の重要性を理解し、日々の対応の中で実践することが、長期的な成功につながります。

土台となる開業エリア、物件、コンセプト、ターゲティングをしっかりと固め、AISASの法則に基づいた効果的な情報発信を行い、来院しやすい雰囲気を作り、患者さんとの良好な関係を築くことで、地域に根ざしたクリニックを目指しましょう。

Med-Pro Doctors(株式会社EN)では、新規開業、承継開業はもちろん、マーケティングや事務長代行なども承っています。お問い合わせはコチラまで。

次回予告:クリニックの顔!広告戦略で認知度アップ!

クリニックの集患戦略、奥が深いですよね!

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クリニックを開業したものの、「なかなか患者さんが集まらない…」という悩みは、多くの開業医が直面する課題です。どんなに素晴らしい医療を提供していても、患者さんに知ってもらわなければ意味がありません。

今回は、クリニックの集患戦略について、マーケティングのAISASの法則に沿って、具体的な方法や注意点などを詳しく解説していきます。

くことで、地域に根ざしたクリニックを目指しましょう。

2025/04/03
著者:鎌形博展
医師、株式会社EN 代表取締役、医療法人社団季邦会 理事長、東京医科大学病院 非常勤医師


東京都出身。埼玉県育ち。
明治薬科薬学部を卒業後、中外製薬会社でMRとなるも、友人の死をきっかけに脱サラして、北里大学医学部へ編入する。
卒業後は東京医科大学病院救命救急センターにて救急医として従事。2017年には慶應義塾大学大学院にて医療政策を学び、MBAを取得。東北大学発医療AIベンチャー、東京大学発ベンチャーを起業した他、医療機器開発や事業開発のコンサルティングも経験。2019年、うちだ内科医院を継承開業。以降、2020年に医療法人季邦会(美谷島内科呼吸器科医院)を継承し、2021年には街のクリニック 日野・八王子を新規開業。2023年には株式会社EN創業。国際緊急援助隊隊員・東京DMAT隊員・社会医学系専門医。趣味はBBQ。43歳で剣道・フェンシングを再開。

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