序章:なぜ医師こそ資産形成が重要なのか?

医師は高収入というイメージがありますが、それは決して安泰を意味するものではありません。むしろ、医師という職業ならではの事情から、堅実な資産形成が非常に重要になります。

高収入に伴う高税率: 収入が増えるほど税負担も大きくなり、手取り額は思ったほど増えない可能性があります。

課税所得金額所得税率住民税率
~195万円5%10%
195万円超~330万円10%10%
330万円超~695万円20%10%
695万円超~900万円23%10%
900万円超~1,800万円33%10%
1,800万円超~4,000万円40%10%
4,000万円超45%10%

適切な節税対策を講じることで、より多くの資産を形成できます。

  • 医療制度改革の影響: 医療制度改革は、診療報酬や勤務形態に影響を与える可能性があり、将来の収入見通しを不透明にする要因となります。
    ◦診療報酬改定:診療報酬は定期的に改定され、医療機関の収益に影響を与えます。
    ◦地域医療構想:医療資源の効率的な活用を目指し、病院の統廃合や機能分化が進む可能性があります。
    ◦医師の働き方改革:長時間労働の是正や、ワークライフバランスの推進が求められています。
  • 長時間労働と不規則な勤務: 忙しい医師にとって、資産運用に割ける時間は限られています。勤務形態に合わせた効率的な資産形成方法を選択することが重要です。
    ◦大学病院勤務医:研究や学会参加など、自己投資に費用がかかる場合が多い。
    ◦市中病院勤務医:当直や夜勤が多く、時間的な制約がある。
    ◦診療所勤務医:比較的時間に余裕がある一方、収入が安定しない場合もある。
  • 開業医の経営リスク: 開業医は、経営状況によって収入が大きく変動する可能性があります。クリニックの経営と並行して、個人としての資産形成も計画的に進める必要があります。

資産形成の基礎知識

資産形成とは、単に貯蓄するだけでなく、将来の目標を達成するために、計画的に資産を増やし、守っていくことです。

  • 資産形成の3つの柱: 「貯蓄」「投資」「保険」をバランス良く組み合わせることが重要です。
    ◦貯蓄: 将来に備えた資金を蓄える基礎となります。
    投資: 貯蓄した資金を運用し、増やすことを目指します。
    保険: 不測の事態に備え、経済的なリスクを軽減します。
  • 資産形成の目的:
    ◦老後資金:ゆとりある老後生活を送るための資金。
    ◦住宅購入:マイホーム取得のための資金。
    ◦子供の教育資金:大学進学など、教育にかかる費用。
    ◦開業資金:クリニック開業のための資金。
    ◦旅行資金:旅行やレジャーを楽しむための資金。
  • 資産形成の目標設定: 目標金額と達成時期を明確化することで、モチベーションを維持しやすくなります。
    例:老後資金として3,000万円を65歳までに準備する。
  • 時間軸を意識する: 短期、中期、長期といった時間軸で目標を設定し、それぞれの期間に適した資産形成方法を選択しましょう。
  • リスク許容度
    ◦年齢:若いほどリスク許容度は高く、年齢を重ねるにつれて低くなる傾向があります。
    ◦家族構成:扶養家族がいる場合は、リスク許容度は低くなる傾向があります。
    ◦収入状況:収入が安定しているほど、リスク許容度は高く設定できます。
  • 投資の知識・経験
    ◦投資初心者:まずは少額から始め、徐々に知識・経験を積んでいくことが大切です。
    ◦経験者:より高度な投資に挑戦し、資産を増やすことを目指せます。

医師の資産形成における注意点

医師のライフスタイルやキャリアパスは多様です。それぞれの状況に合わせて、最適な資産形成戦略を立てる必要があります。

  • 勤務医: 勤務形態や勤務先によって、利用できる制度や選択肢が異なります。病院の福利厚生制度などを活用し、効率的な資産形成を目指しましょう。
    例:企業型確定拠出年金制度の利用、財形貯蓄
  • 開業医: クリニック経営は、収入と支出のバランスが重要です。節税対策を徹底し、事業所得と給与所得を適切に調整することで、税負担を軽減できます。
  • 専門医・研修医: 専門分野の習得やキャリアアップのための自己投資も重要です。将来を見据え、収入と支出のバランスを考えながら、計画的に資産形成を行いましょう。
  • 女性医師: 結婚、出産、育児など、ライフイベントによるキャリアの変化を考慮し、柔軟性のある資産形成計画を立てることが大切です。

具体的な資産形成手段

様々な資産形成手段の中から、自身の状況や目標に合ったものを選択しましょう。

  • 預貯金: 低金利ではありますが、元本保証があり、安全性が高い点が魅力です。
    普通預金: 日常的な資金の出し入れに利用。
    定期預金: 一定期間預け入れることで、普通預金よりも高い金利を得られます。
    積立預金: 毎月一定額を積み立てることで、計画的に貯蓄できます。
    外貨預金: 米ドルやユーロなどの外貨で預金することで、金利差や為替差益を狙えます。ただし、為替変動リスクがあります。
  • 債券: 国や企業が発行する債券に投資することで、利息収入を得られます。
    国債: 国が発行する債券で、安全性が高いのが特徴です。
    社債: 企業が発行する債券で、国債よりもリスクが高い分、利回りが高い傾向があります。
  • 投資信託: 複数の株式や債券に分散投資することで、リスクを抑えながら、安定的なリターンを目指せます。
    インデックスファンド: 特定の指数(例:日経平均株価)に連動した運用成果を目指す、運用コストが低い投資信託。初心者にもおすすめです。
     ▪分散投資によるリスク軽減効果
     ▪長期的な視点で安定的なリターンを目指す
     ▪運用コストが低く、効率的な資産運用が可能
    アクティブファンド: ファンドマネージャーが銘柄を選定し、市場平均を上回るリターンを目指します。運用コストはインデックスファンドより高めです。
     ▪専門家の知見を活かした運用
     ▪市場平均を上回るリターンを狙える可能性
     ▪運用コストが高く、リスクも高め
  • 株式投資: 個別株への投資は、ハイリスク・ハイリターンです。
    バリュー株: 割安な銘柄に投資し、株価上昇による利益を狙います。
    グロース株: 成長が見込まれる企業の株に投資し、長期的な値上がり益を狙います。
    配当株: 安定的な配当収入を得ることを目的とした投資。
    優待株: 株主優待制度を利用し、企業から商品やサービスの提供を受けることができます。
  • ETF(上場投資信託): 特定の指数に連動することを目指す投資信託で、株式のように証券取引所で売買できます。
  • REIT(不動産投資信託): 複数の不動産に投資する投資信託。少額から不動産投資に参入できます。
  • : インフレヘッジやリスク分散としての役割が期待できます。
  • 仮想通貨: ビットコインなど、近年注目を集めている投資対象。価格変動が激しく、リスクが高い点に注意が必要です。
    ビットコイン (BTC): 最初に作られた仮想通貨であり、時価総額も最大。
     特徴: 稀少性が高く、世界中で広く認知されている。
    イーサリアム (ETH): スマートコントラクト機能を持つプラットフォーム。
     特徴: 分散型アプリケーション (DApps) の開発基盤として利用され、将来性が高いとされている。
    リップル (XRP): 国際送金に特化した仮想通貨。
     特徴: 高速かつ低コストな国際送金を実現することを目指している。
    その他: アルトコインと呼ばれるビットコイン以外の仮想通貨は数多く存在し、それぞれ異なる特徴を持つ。
     投資する際は、それぞれの仮想通貨の技術や将来性について十分に理解しておく必要がある。

2025/02/06
著者:鎌形博展
医師、株式会社EN 代表取締役、医療法人社団季邦会 理事長、東京医科大学病院 非常勤医師

東京都出身。埼玉県育ち。
明治薬科薬学部を卒業後、中外製薬会社でMRとなるも、友人の死をきっかけに脱サラして、北里大学医学部へ編入する。
卒業後は東京医科大学病院救命救急センターにて救急医として従事。2017年には慶應義塾大学大学院にて医療政策を学び、MBAを取得。東北大学発医療AIベンチャー、東京大学発ベンチャーを起業した他、医療機器開発や事業開発のコンサルティングも経験。2019年、うちだ内科医院を継承開業。以降、2020年に医療法人季邦会(美谷島内科呼吸器科医院)を継承し、2021年には街のクリニック 日野・八王子を新規開業。2023年には株式会社EN創業。国際緊急援助隊隊員・東京DMAT隊員・社会医学系専門医。趣味はBBQ。43歳で剣道・フェンシングを再開

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