自己紹介
私は以前、リハビリテーション領域の作業療法士をしていました。
その中で医療業界のさまざまな課題に直面し、「自分に何かできることはないか」と考え、医師になることを決意しました。そして医学部に編入し、現在は医師として活動しています。
学生時代には、プライマリ・ケア連合学会の学生活動を行い、多くの方と知り合う機会を得ました。
今でも、その時に出会った方々の中には、今日の会場にもいらっしゃるかもしれません。
現在は、日本慢性期医療協会の委員としても活動しており、慢性医療の発展に力を入れています。また、24時間テレビの支援活動にも関わるなど、さまざまな取り組みを行っています。

法人の紹介

当院は「元気会グループ」の一員として、療養病院(326床)、訪問診療のクリニック、訪問看護ステーション、NPO法人を横浜市内で展開しています。
1981年に開設し、現在43年目を迎えました。横浜市では最も早く老人病院として許可を受け、高齢者医療に関して30年以上の歴史を持っています。
また、医療経営にも力を入れており、外部審査を受けるなど、さまざまな取り組みを行っています。
最近では、認知症ケアの技法である「ユマニチュード」の認証施設としても活動し、より良いケアの提供に努めています。当院の平均在院日数は約400日ですが、近年は140日程度に短縮する傾向にあり、業界の構造が変化していることを実感しています。
療養型病院のイメージと課題
皆さんは「療養型病院」と聞くと、どのようなイメージを持たれるでしょうか?
多くの方は、外来がなく、普段の生活で関わることが少ないため、馴染みがないかもしれません。医療従事者の中にも、「療養型病院は終末期の患者さんが多く、ただ時間が過ぎる場所」というイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、私はこの療養型病院に大きな魅力を感じ、現在の仕事に取り組んでいます。医療の流れは一般的に、急性期医療 → 回復期医療 → 療養期医療という順序で進むとされています。私自身、リハビリの分野からスタートし、その後、救命救急センターで急性期医療にも携わりました。
しかし、救命医療の現場で「すでに手遅れではないか」と感じるケースが多くありました。そこで私は、「本当に医療の入り口は急性期なのか?」と疑問を抱くようになりました。むしろ、予防や早期介入こそが重要なのではないかと考えるようになったのです。
療養型病院での取り組み
当院の理念は「心を元気にする」ことです。
1. 身体拘束ゼロ
当院では身体拘束を一切行わないことを目標に掲げ、2011年から取り組みを開始しました。
一般的に医療現場では「拘束が必要」とされる場面が多くありますが、これは思い込みによるものも多いのです。
現場からの「なぜ縛るのか?」という疑問を大切にし、5年かけて100%実現しました。
環境整備や繰り返しのアセスメント、設備投資を進めることで、「拘束しなくても安全な環境」を作ることができました。
2. 積極的な経口摂取
「肺炎を起こすから食べない方がいい」と言われる患者さんに対し、「食事は生きる喜びの一つ」と考え、積極的に経口摂取を支援しています。
これは、リスクを承知の上で、スタッフと家族が同じ方向を向いて取り組むことが必要です。
「予防のために食事をする」という考え方を浸透させ、患者さんのQOL(生活の質)を向上させています。
3. 退院支援
平均要介護度4.6の当院では、退院は困難と思われがちです。
しかし、認知症があっても、できるだけ在宅に戻れるよう支援しています。
「療養病院にいるしかない」のではなく、「どこかへ行ける選択肢を増やす」ことが重要です。
職員の教育と環境整備
- ユマニチュード研修(全職員が受講)
- 介護開発室(新人研修+介護福祉士資格取得支援)
- 最新設備の導入(超低床ベッド、最新型エアマット、一人ひとりに合う車椅子)
医療経営の課題と工夫
療養型病院の医療報酬は包括払いであり、診療報酬の仕組み上、コストを抑えるほど利益が増えるという矛盾があります。
しかし、当院では「儲かる医療ではなく、必要な医療を提供する」ことを重視しています。
経営の方向性を明確にし、スタッフの共感を得ることで、困難を乗り越えています。
まとめ
- 「できない理由」ではなく、「どうすればできるか」を考える文化
- 職員のやりがいを生むために、成功事例を共有する
- 数値化・可視化して、成果を実感できるようにする
「心を元気にする」ため、私たちは患者さんと向き合い、日々改善を重ねています。