日本の医療現場は今、前例のない変革期にあります。高齢化社会の急速な進展に伴い医療費は増大し、医療従事者の人手不足や医療サービスの地域格差といった課題が深刻化しています。
このような状況において、クリニック開業は地域医療への貢献や患者との信頼関係構築、そして医師本来の診療理念を実現できる魅力的な選択肢として注目されています。
本連載「MBAホルダー開業医のDr.鎌形が教える『クリニック開業の教科書』」では、開業を検討している医師・医療関係者の皆様に向けて、準備段階から経営ノウハウ、そして将来展望まで、実践的かつ包括的な情報をお届けします。
目次
- 日本の医療を取り巻く現状と課題
- クリニック開業の意義とメリット
- 本連載の目的と皆様へのメッセージ
日本の医療を取り巻く現状と課題
加速する高齢化と医療費の増大
日本は世界に類を見ないスピードで高齢化が進行しています。人口減少時代に突入した現在でも、高齢者、特に後期高齢者の数は増加傾向が続いています。その一方で、労働人口は急速に減少しています。この人口動態の変化により、医療費は右肩上がりとなり、医療保険制度の持続可能性に大きな懸念が生じています。
働き方改革と、深刻化する医療人材の不足
医師不足・看護師不足は医療現場における喫緊の課題です。特に地方においては、医療従事者の確保が困難となり、必要な医療サービスの提供に支障をきたしています。このことは患者の治療機会の損失につながるだけでなく、現場で働く医療者の負担増加という悪循環を生み出しています。
拡大する地域間医療格差
都市部と地方の間には、医療サービスの提供体制に大きな格差が存在します。特に問題なのは県内での医療資源の偏在です。県庁所在地に医療人材が集中する一方で、交通アクセスの悪いエリアでは医療資源の確保が極めて困難な状況となっています。地方では専門医の不足や医療機関の数が限られているため、高度な医療を受けることが難しい場合も少なくありません。
求められる医療制度改革
日本の医療制度は複雑で分かりにくいという指摘があります。医療費の適正化、医療サービスの質向上、医療従事者の働き方改革など、制度改革は待ったなしの状況です。また、高額療養費制度の見直しや保険料の負担額・割合の引き上げも議論されています。質の高い医療を持続するためには、抜本的な制度改革が期待されています。
クリニック開業の意義とメリット
地域医療への貢献という使命
少子高齢社会では急性期医療の重要性はもちろんですが、回復期や在宅医療といった地域医療の役割がますます大きくなっています。
クリニック開業は地域医療に貢献できる絶好の機会です。地域住民の健康を守るために質の高い医療サービスを提供し、地域包括ケアシステムの中核を担うことも可能です。
患者との深い信頼関係の構築
クリニックは大規模病院と比較して、患者との距離が近く、より密接な関係を築くことができます。一人ひとりのニーズに合わせたきめ細やかな診療が可能です。
さらに、患者さんの人生に寄り添い、長期的な健康管理をサポートするという、医師本来の喜びを実感できる環境でもあります。
理想の医療を実現する自由な診療スタイル
クリニックでは医師自身の裁量で診療方針を決定できる自由があります。専門性を活かした診療や、患者との対話を重視した診療など、理想とする医療を実現できます。
都市部での開業では高い専門性が求められる一方、地方での開業ではプライマリケアの重要性が増すなど、地域特性に応じた診療スタイルを確立できるのも魅力です。
経済的な成功と安定の可能性
適切な経営戦略と専門性を活かしたクリニック運営により、勤務医時代を上回る経済的リターンを得ることも可能です。特に需要の高い診療科や特色ある医療サービスを提供することで、安定した患者数と収益を確保できます。
また、自身で経営判断ができるため、効率的な設備投資や人材配置を行うことで、長期的な資産形成にもつながります。医師としての専門性と経営者としての視点を両立させることで、経済的な安定と成長を実現できるのもクリニック開業の大きな魅力です。
医師兼経営者としての成長と充実感
クリニック経営は医師としての専門知識だけでなく、経営者としての視点も求められます。自らの医療理念に基づいたクリニックを成長させ、地域社会に貢献することで、大きなやりがいと充実感を得ることができます。
経営手腕を磨くことは、医師としての新たな可能性を広げるきっかけにもなります。
本コラムの目的と読者へのメッセージ
本連載は、クリニック開業を検討している医師・医療関係者の皆様に向けて、開業準備から経営、そして未来への展望まで、実践的な情報を提供することを目的としています。
具体的には、開業に必要な法的手続き、資金調達方法、最適な物件選定、医療機器の選び方、効果的なスタッフ採用、集患戦略、経営ノウハウ、法務・税務知識、リスクマネジメントなど、多岐にわたるテーマを扱います。
また、成功事例と失敗事例の両方を紹介することで、読者の皆様がより具体的にクリニック開業のイメージを掴み、開業後の成功に向けた道筋を立てられるよう、分かりやすく解説していきます。
クリニック開業は医師として新たなステージに挑戦する大きな決断です。困難や課題は避けられませんが、地域医療に貢献し、患者の健康を守るという大きなやりがいがあります。
本連載が、クリニック開業を目指す皆様にとって価値ある情報源となり、成功への道標となることを心から願っています。
次回予告
第2回では、「クリニック開業までの道のり:全体像とスケジュール」について解説します。
開業までのステップ、必要な期間、スケジュール管理の重要性などについて詳しく解説していきます。
2025/02/06
著者:鎌形博展
医師、株式会社EN 代表取締役、医療法人社団季邦会 理事長、東京医科大学病院 非常勤医師

東京都出身。埼玉県育ち。
明治薬科薬学部を卒業後、中外製薬会社でMRとなるも、友人の死をきっかけに脱サラして、北里大学医学部へ編入する。
卒業後は東京医科大学病院救命救急センターにて救急医として従事。2017年には慶應義塾大学大学院にて医療政策を学び、MBAを取得。東北大学発医療AIベンチャー、東京大学発ベンチャーを起業した他、医療機器開発や事業開発のコンサルティングも経験。2019年、うちだ内科医院を継承開業。以降、2020年に医療法人季邦会(美谷島内科呼吸器科医院)を継承し、2021年には街のクリニック 日野・八王子を新規開業。2023年には株式会社EN創業。国際緊急援助隊隊員・東京DMAT隊員・社会医学系専門医。趣味はBBQ。43歳で剣道・フェンシングを再開