オンライン診療は、情報通信技術を活用し、医師と患者が物理的に離れた場所で診療を行う新たな診療形態です。2020年のコロナ禍以降、急速に普及が進み、2025年現在では多くの医療機関で導入されています。本稿では、オンライン診療の最新状況、メリット・デメリット、導入における注意点、そして今後の展望について解説し、医療従事者の方々にとって有益な情報提供を目指します。

オンライン診療の現状(2025年)

  • 導入率の増加:
    民間のアンケートではオンライン診療の導入率が30%程度という報告も一部あり、2020年の調査結果である16.3%から増加している可能性があります。オンライン診療が医療現場に浸透しつつあることを示しているように見えますが、まだまだ普及しているとは言い難い状況が続いています。
    (参考資料:株式会社ソラスト「クリニックにおけるオンライン診療導入状況調査」:既にリンク先削除されています。)
  • 診療科目の拡大: 従来は、内科、小児科、皮膚科などの診療科目が中心でしたが、近年では、精神科、産婦人科、眼科など、様々な診療科目でオンライン診療が導入されています。
  • 技術の進化: AIによる画像診断支援やウェアラブルデバイスによる健康状態のモニタリングなど、オンライン診療を支援する技術は開発・実証実験が進められていますが、2025年1月現在ではまだ限定的な導入にとどまっていると考えられます。

オンライン診療でできること

オンライン診療では、ビデオ通話などを用いて、以下の診療行為を行うことができます。

  • 問診・視診・聴診: 患者の訴えを聞き、患者の状態を観察します。場合によっては、デジタル聴診器などを用いた聴診も可能です。
  • 診断・治療方針の決定: 収集した情報に基づき、診断を行い、患者と相談の上で治療方針を決定します。
  • 処方箋発行: 必要に応じて、電子処方箋を発行することができます。
  • 服薬指導: 薬剤師と連携し、オンラインで服薬指導を行うことができます。
  • 経過観察: 慢性疾患の患者などに対し、定期的なオンライン診療で経過観察を行うことができます。
  • 健康相談: 患者の健康に関する不安や疑問を解消するための相談に対応します。

オンライン診療導入のメリット

医療機関にとって、オンライン診療を導入するメリットは多岐に渡ります。

  • 診療効率の向上: 移動時間や待ち時間の削減により、医師はより多くの患者を診察することが可能となります。
  • 患者満足度の向上: 患者は、自宅や職場など、都合の良い場所で診療を受けることができるため、利便性が高く、満足度向上に繋がります。
  • 医療アクセスの向上: 地理的な制約を受けずに、遠隔地の患者や通院が困難な患者にも医療を提供することができます。
  • 感染症対策: 院内感染のリスクを低減することができます。
  • 新たな収益源の確保: オンライン診療による新たな収益モデルを構築することができます。

オンライン診療導入のデメリットと注意点

  • 対面診療の限界: 触診などができないため、診断が難しい場合があります。
  • 技術的な問題: 安定した通信環境の確保や、セキュリティ対策が必須となります。
  • 法的・倫理的な問題: 個人情報保護や、オンライン診療における責任の所在など、法的・倫理的な問題をクリアする必要があります。
  • 診療報酬: オンライン診療の診療報酬は、対面診療と比べて低い場合があります。

オンライン診療システムの比較検討

数多くのオンライン診療システムが提供されていますが、医療機関のニーズに合わせて最適なシステムを選択することが重要です。ここでは、代表的な5つのシステムを比較検討します。

システム名特徴料金
CLINICS(クリニクス)豊富な機能、高いセキュリティ、多くの医療機関で導入実績あり初期費用:0円〜
月額費用:30,000円〜
curon(クロン)導入費用・月額費用無料、シンプルな操作性無料
LINEドクターLINEアプリ上で診療可能、ユーザーへの認知度が高い診療代金の3.5%
YaDoc(ヤードック)患者とのコミュニケーション機能が充実、生活記録・バイタルの可視化が可能月額33,000円〜
ポケットドクターアプリで予約から処方箋発行まで完結、2ヶ月間の無料お試しプランあり月額33,000円〜

※ 料金はあくまで目安であり、プランやオプションによって異なります。
また電子カルテにオンライン診療機能が標準装備されているようなケースもあります。
(参考:CLIUS https://clius.jp/function/telemedicine/

オンライン診療導入に向けた準備

オンライン診療を導入する際には、以下の準備が必要です。

  • システムの導入: オンライン診療に対応したシステムを導入する必要があります。
  • スタッフの教育: オンライン診療に関する知識やスキルを習得するための研修が必要です。
  • 患者への周知: オンライン診療の提供開始について、ホームページや院内掲示などで患者に周知する必要があります。

オンライン診療の未来:海外事例と日本の公的議論を踏まえて

オンライン診療は、医療アクセス改善、医療費抑制、そして医療の質向上に貢献する可能性を秘めており、世界各国で積極的に導入が進められています。

海外におけるオンライン診療の現状

  • アメリカ: 遠隔医療は既に広く普及しており、慢性疾患管理、精神疾患治療、救急医療など、様々な分野で活用されています。 特に、広大な国土を持つアメリカでは、地理的な障壁を克服し、医療アクセスを向上させる上で重要な役割を担っています。 また、近年では、AI や VR/AR 技術を活用した遠隔医療の研究開発も盛んに行われていますが、医療費の高騰や医療格差といった課題も抱えています。
  • 中国: 人口増加と医療資源の偏在という課題を抱える中国では、オンライン診療が急速に普及しています。 政府主導でオンライン診療プラットフォームの整備が進められており、都市部だけでなく農村部でもオンライン診療が利用できるようになっています。 また、モバイル決済との連携により、診療費の支払いがスムーズに行えるようになっている点も特徴です。一方で、医療データのセキュリティやプライバシー保護に関する懸念も指摘されています。
  • ヨーロッパ: EU 加盟国では、国境を越えたオンライン診療の提供を促進するための法整備が進められています。 患者は、EU 域内のどの国にいても、オンラインで医師の診察を受けることができるようになることが期待されています。しかし、各国の医療制度や言語の違いなど、克服すべき課題も多く残されています。

日本における公的な議論

日本では、厚生労働省が中心となり、オンライン診療の普及に向けた様々な取り組みが行われています。

  • オンライン診療の適切な実施に関する指針: オンライン診療の質を確保し、患者の安全を守るための指針が策定されています。
  • 診療報酬: オンライン診療の診療報酬体系は、段階的に見直されており、より多くの医療機関がオンライン診療を導入しやすい環境が整備されつつあります。
  • オンライン資格確認: マイナンバーカードを用いたオンライン資格確認システムの導入により、患者の本人確認や保険資格確認がスムーズに行えるようになっています。

今後の展望

海外の事例や日本の公的議論を踏まえ、日本のオンライン診療は以下のような方向性で推進されていくと考えられます。

  • 診療科目の拡大: 現在は、比較的軽症な疾患の診療が中心ですが、今後は、専門性の高い診療科や慢性疾患の管理など、より幅広い分野での活用が期待されます。
  • AI や IoT などの活用: AI による画像診断支援や、ウェアラブルデバイスによる健康状態のモニタリングなど、オンライン診療を支援する技術の導入が加速するでしょう。
  • 地域医療連携の強化: オンライン診療を地域医療連携に活用することで、医療資源の効率的な活用や、医療の質向上を目指した取り組みが進むと考えられます。
  • 患者中心の医療: オンライン診療を通じて、患者がより主体的に医療に参加できるよう、患者教育や shared decision making などの取り組みが重要になります。

日本国内のオンライン診療成功事例

日本国内でもオンライン診療の成功事例は数多く存在します。

  • 離島・僻地における医療アクセス改善: 長崎県五島市では、オンライン診療を活用し、島民が本土の専門医の診察を容易に受けられるようにすることで、医療の質向上に繋げています。 北海道利尻富士町では、高齢化による通院困難者の増加に対応するため、オンライン診療を導入し、高齢者の健康寿命の延伸に寄与しています。
  • 慢性疾患管理の効率化:糖尿病などの慢性疾患患者を対象に、オンライン診療による服薬指導や生活指導を行い、治療継続率の向上に成功しているクリニックも出てきています。
  • メンタルヘルス分野での活用: 多くの精神科クリニックでオンラインカウンセリングが提供されており、オンラインカウンセリングサービスも登場しています。
  • 産婦人科領域での活用: 産婦人科クリニックでは、オンライン診療を妊婦健診に活用することで、妊婦の通院回数を減らし、負担軽減に繋げています。
  • 企業における健康管理: 多くの企業では、従業員向けの福利厚生としてオンライン診療が導入されており、従業員は体調が悪くなっても会社にいながら医師の診察を受けることができるようになっています。

これらの事例は、オンライン診療が様々な医療現場で効果的に活用され、医療アクセス改善、医療費抑制、医療の質向上に貢献していることを示しています。

オンライン診療の未来

オンライン診療は、医療の未来を大きく変える可能性を秘めています。医療従事者一人ひとりが、その可能性を理解し、積極的に活用していくことが重要です。

参考情報

2025/01/25
筆者:Gemini Advanced by Google
加筆修正:鎌形博展
医師
株式会社EN 代表取締役
医療法人社団季邦会 理事長
東京医科大学病院 非常勤医師

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