専門医制度発足以来、永遠のテーマですね。医師に専門医は必要でしょうか?

医師から見た専門医

医師から見ると、専門医は普通の医師であれば、通常持っているものだと思います。逆に言うと、専門医を持っていないということは、良くも悪くも普通ではないということになります。実力があれば、専門医はいらないという考えは当然あると思いますが、他の医師から見たら、なぜ取らないのか疑問は持たれるでしょう。そこで、専門医を取らないのはどのようなケースが想定されるでしょうか?

① 専門医受験資格がない

定められた研修を修了していないために、受験資格がないケースがあります。医局に入らずとも大きな市中病院であれば問題なく受験資格を得ることはできますが、過酷な労働環境でドロップアウトして能力は高くても、受験資格を得られなかったというような医師もみかけます。

あるいは、診療科を途中で変更したり、研究に取り組んだり、ビジネスを始めたりという理由があることも散見されます。

② 専門医試験に合格できない

一部の専門医試験は、合格率が低く、また業務が多忙で勉強時間を確保できないなどの理由で、合格の難易度が高いことがあります。努力不足であると言っては、それまでですが、実際には過酷な労働環境で専門医試験の対策までやってられないという医師もいるかと思います。

③ 専門医不要論

腕さえあれば専門医など不要という考えであえて、専門医を取らない医師もまれに見かけます。資格維持のためのノルマを嫌うケースもあるようです。

④ 更新できなかった

研究に取り組んだりということもあります。あるいは例えば厚生労働省で医系技官をしていたなど更新資格を得られなかったために専門医を維持できないケースもあるかと思います。

このように考えると、腕が良くても専門医を持っていないケースもありえると分かりますが、通常は先入観を持って見られてしまうのは耐えるしかないでしょう。

社会から見た専門医

さて、それでは、社会から見たらどうなるでしょうか?

① 信頼

専門医はある種のブランド効果があり、信頼を獲得する手段とはなりえます。それは医療従事者からもそうですが、主に患者さん達からそう見られるという側面が強いと思います。

② 資格

海外で医師をやろうと思ったり、国内でもポジションを獲得するのに専門医を持っていることが重要になることはあります。チャンスを拡げるためには、もっているに越したことはないと言えるでしょう。

残念ながら、日本の専門医制度においては、これ以上の特別な意味は現状なしていないと考えられます。将来的には加算の要件になることは当然ありえます。例えば、すでに精神保健指定医などは報酬に直結しますが、そのような場面が今後増える可能性は十分に考えられます。

専門医は必要なのか?

結局のところ、人によって答えは違うとしか言いようがありません。

しかしながら普通に臨床医を続けていく医師が、あえて専門医を取らない理由はなさそうです。しかし専門医を取るためには、それなりの時間が必要となります。何か他にやりたいことがあるのであれば、それを差し置いてまで取得すべきかは議論が分かれるでしょう。

あるDrの選択 ① 

(学士編入・救命救急・開業)

【背景】 元サラリーマンだが、一念発起し医学部に学士編入し、卒業。都内有名病院で臨床研修を32歳で修了した。結婚して、そろそろ子どもも欲しいが、医師としてのやりがいやキャリアも大切にしたい。一方で遠回りした彼には、他の人よりも時間がないし、家庭もある。

【選択】 とにかく自分がやりたいと思ったことをやりたい。臨床研修で救急対応の面白さに目覚めていた彼は、当初志望していた腫瘍内科医への道を捨てて、救急医の道を歩むことにした。家庭を考え都内で研修先を探したが、都内において豊富な症例に恵まれているのがいずれも大学病院であった。また小規模な医局がゆえに、関連病院への医局人事での派遣がない某医局に進むことにした。

【結果】 思い描いた重症、緊急症例に対応する刺激的な日々。当直回数は多く、勤務時間も長かったが、ON、OFFははっきりしている勤務体系であったため、意外と体力は問題にならなかった。週80時間ほど拘束されたが、仮眠もとれるし、明けは帰れた。ずっと駆けずり回っているわけではない。モチベーションの高い人間は研究したり、留学準備をしたりする程度の余裕はあった。1,2年で大抵の症例は経験し、基本的な対応は上級医なしでも全く問題ない水準まで成長した。臨床研修医と自分で重症の対応をするようになり、満足度は高かった。また強制はされなかったが、教授の大型の研究に参加して、研究を少しかじることもできたし、条件の良い外勤先では野戦病院で腕を高めつつ、給料も大きく稼ぐことができて、大学医局の良さを満喫したと言える。

【専門医は必要なのか?】 実は、このあと、彼は救急専門医を維持できる環境に身を置くことはないと考え、救急専門医の取得をせずに新しい道に踏み出した。それがその後の意思決定においてネックになったことはない。しかしながら、今後もし救急医に戻りたいと考えるようになった場合には、就職先は絞られる可能性があると本人は考えている。

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